文化人類学
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特集: 外来権力の重層化と歴史認識─台湾と旧南洋群島の人類学的比較
重層する外来権力と台湾東海岸における「跨る世代」
西村 一之
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2016 年 81 巻 2 号 p. 284-301

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抄録

本論文は、帝国日本と国民党政府という二つの外来権力による統治を重層的に経験した台湾の人々を取り上げた人類学的研究である。1920年代に生まれた高齢者の多くは、これら二つの外来権力が発動した日本化と中華化という異なる二つの社会形成の中を生きてきた。ここでは、この二つの統治を経験した彼らを「跨る世代」と名付け注目した。本論文では、重層的な外来権力との間で示された、台湾の人々の生き方について考えることを目的としている。具体的には、台湾東海岸に暮らす人々の重層的な被統治経験について考える。なかでも、戦前戦後を通じて統治者の掲げる理念と向き合い、統治機構と関わってきた人々を取り上げた。特に二人の上級初等教育を受けた人物の生き方を中心に紹介している。彼らのような日本教育において優れた者が就くのは、統治によって新たに生まれた近代的職業であった。それは統治機構と結びつき、農業を基本とした従来とは違った生き方を可能とした。彼らは、重層化した外来権力による統治を経たが故に、戦後社会的に否定された自らの中にある「日本」と向き合わざるを得ない状況が生まれ、これを通して「中華」 にも応じる力を持った。そして、外来権力に対し向き合い、それが故に苦しみや悩みを抱いた。しかし、それは諦観や屈辱という言葉だけで回収できるものではない。重層的な統治を受けた経験があるからこそ、「日本」も「中華」も、それぞれ自らの一部として用いて生きていかなければならない状況が生まれた。それが、台湾の「跨る世代」が、重層する外来権力に対して生きてきたということなのである。

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2016 日本文化人類学会
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