文化人類学
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特集 グローバリゼーションと公共空間の変容
古着のフローが生み出す公共空間
インド、アフマダーバードの都市開発の事例より
岩谷 彩子
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2017 年 82 巻 2 号 p. 213-232

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抄録

本論文の目的は、グローバル化が進むインド、グジャラート州アフマダーバードの路上で取引される古着のフローから、インドの公共空間の生成的な側面について明らかにすることである。インドにおける公共空間の議論では、西欧社会における公私の概念とは異なる公共概念の存在やその公共性を担う主体をめぐる議論が中心であり、インドの公共空間は西洋的な公共概念を含みつつも多層的で、異なる主体の利害対立の場として描かれてきた。しかしグローバル化が進む現代インド社会において、そのような対抗的な公共空間の描き方は妥当なのだろうか。

この問いについて、本論文では2つの異なる空間とそこから派生している〈道〉を対比させることで検討した。まずとりあげたのは、アフマダーバード旧市街の再開発の一環で移設されたグジャリ・バザールという日曜市である。再開発の結果、スラムを含み混沌としていた日曜市は、整然と管理されたグローバルな空間に変貌し、目的と利用時間を制限された「ゲーテッド・マーケット」化しつつある。もう1つは、アフマダーバード市内外から持ち込まれる古着とそれを取引する人により占拠された、同じく旧市街のデリー門前の路上である。ゲーテッド・コミュニティや中上流階層から集められた古着は、路上市を介して日曜市をはじめとする市内外の路上市や国外市場に流入し、古着を加工する新たなコミュニティの空間も生み出していた。路上市の公共性は、異なる階層やコミュニティ間の差異を媒介し、古着が変形しフローする〈道〉を様々な場所に現出させている点にある。グローバル化により変貌する都市空間とは一見対照的な路上市だが、両者は相互に影響を与え合い同時に成立している。ある地点がグローバルな秩序に組み込まれることになろうとも、 別の地点に新たな〈道〉が用意される。こうした潜在力にこそインド的な公共空間とそこで生きる人々のあり方が見出せるのである。

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2017 日本文化人類学会
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