文化人類学
Online ISSN : 2424-0516
Print ISSN : 1349-0648
ISSN-L : 1349-0648
特集 現代消費文化を捉える人類学的視点の探求
もうひとつの市場をつくる
ラオス南部ボーラヴェーン高原におけるコーヒーの取引からみる倫理的消費
箕曲 在弘
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 83 巻 1 号 p. 058-077

詳細
抄録

本稿はラオス南部のコーヒー栽培地域であるボーラヴェーン高原において、民衆交易という理念を掲げて現地の農協からコーヒーを買い付ける日本の輸入会社と農協の関係に焦点をあて、一般の取引とは異なる独自の仕組みを構築しながら、倫理的消費市場を形成していく様子を明らかにする。この形成過程を通じて、次の二点を指摘する。第一に、消費文化は、まさにモノが消費される現場においてのみ成立するのではなく、生産や流通といった消費の外側にあるとみられていた要素と重なり合いながら成立しているのであり、社会的公正や環境配慮を求める倫理的消費者の集合的な欲望が生産や流通体制を再編する力になるということである。第二に、サプライチェーンの一方の端に統合される生産者の領域では、このような倫理的消費者の欲望に応じるために公的機関や民間団体が進める取引における透明性の追求が不確実性を伴うものであり、この不確実な領域を残存させておくことによって倫理的消費市場が維持されているということである。本稿では倫理的消費という現象を、あえて生産や流通の現場から観察することにより、その特性がいかなるものなのかを検討する。

著者関連情報
2018 日本文化人類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top