文化人類学
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特集 ハラールの現代――食に関する認証制度と実践から
ハラール産業と監査文化研究
富沢 寿勇
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2019 年 83 巻 4 号 p. 613-630

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抄録

本稿の主題はハラール産業を対象とした人類学研究の可能性と課題について、特にその監査文化の側面に焦点を当てて整理しておくことにある。まずハラール産業とは、ムスリムが消費可能な商品・サービスを提供するあらゆる産業分野の総称である。ハラール概念はイスラームの宗教的価値規範を土台としているが、生産者においても消費者においても、ムスリムと非ムスリムを巻き込むかたちで展開しているところに特徴がある。ハラール産業が人類学的に興味深いのも、ハラール(神に許されたもの)とハラーム(神に禁じられたもの)という価値規範を中心に、ムスリムと非ムスリムが相互作用しながら、日常の生産、流通、消費の諸側面におけるモノや行為の意味、経済やライフスタイルのあり方に関わる世界観を変容させつつある現象にある。したがってハラールをめぐる生産・流通・消費の過程を統合してアプローチしていくことが必要である。またハラール産業はハラール認証制度と連動しながら展開する傾向があり、その意味では人類学における監査文化研究の一環として位置づけ考察していくことが重要となる。ハラール認証制度を対象とした監査文化の人類学研究では、監査をする側、される側といった当事者のみならず、狭義の監査とは無縁の消費者にも視座を据え、同時にムスリム、非ムスリムにも総合的な光を当てて、監査文化の内面化の問題として探究することが肝要である。本稿では特に日本を中心とする東アジアの非イスラーム圏に波及しているハラール監査文化の受容と多様な在地慣行との組み合わさり方を比較考察した上で、人々の日常における行動のあり方のさまざまな脈絡における微視的研究を丹念に蓄積していくことの必要性を示す。最後に近年国内でハラール食への関心が食のダイバーシティへの関心へと拡大している現象を取り上げ、監査文化が新たな様相を示しながら展開していく可能性を指摘する。

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2019 日本文化人類学会
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