文化人類学
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論文
世帯をめぐる物語
ムンバイのミドルクラスにおける家事労働と相互依存性
田口 陽子
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キーワード: 世帯, 親族, 物語, 家事労働, インド
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2019 年 84 巻 2 号 p. 135-152

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抄録

人類学における親族論は、生殖医療技術の発展や、多様な婚姻制度の拡大や、グローバルなケア労働の再配置によって、再活性化してきた。「親族とは何か」という問いがより根本的に揺さぶられるとともに、親族関係を成り立たせている物語が切実な問題として立ち現れてきた。本稿は、インド都市部の世帯運営を事例に、相互に依存する関係のなかに生きる人々が、どのようにその関係を組み替えうるのかを考察する。そのさい、フィクションという視点から親族関係をとらえなおそうとする議論と、社会的想像力やモラリティの変容をめぐる議論を補助線とする。ムンバイの世帯という単位から親族を論じることで、社会と家族や公的領域と私的領域という境界にとらわれることなく、労働や責任や期待をめぐる語り口と実践を通して、人間のつながりや関係性を照らしだすことを試みる。

まずは、生物学的なものと社会的なものの区分を所与とせず、関係性をとらえなおそうとしてきた人類学的な親族論と物語をめぐる論点を整理する。つぎに「世帯」という単位を参照枠とし、グローバルなケア労働に関する議論を経由したうえで、インドにおけるヒエラルキカルなモラリティの変容について検討する。現代インド都市部における家事労働者をめぐる状況には、カースト分業/紐帯に、消費者の選択と労働者の権利をめぐる問題が入り込み、ヒエラルキーと交換という異なるモラリティが絡みあっている。本稿は、ムンバイを舞台に、一見ふつうの世帯の形成と維持を、民族誌的な物語として描いていく。そうすることで、日常的に作り出されている「奇妙な親族」に光を当て、婚姻と血縁からなる家族の規範に依拠するのではなく、また同等な個人間の交換に移行するのでもなく、別の形でつながりを想像し、他者との相互依存的な関係を構築していく可能性を考える。

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2019 日本文化人類学会
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