文化人類学
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原著論文
「融合」としての認識=存在論
「非-自然主義的」な科学実践を構成する「観測データへの不信」と「ア・プリオリなデータ」の概念
森下 翔
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2020 年 85 巻 1 号 p. 005-021

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抄録

本論の目的は、人間と実在の峻別を前提とする「自然主義的な」科学とは異なるものとして自らの実践を定位する科学者たちの実践を記述することにある。西欧近代を支配する自然主義的な存在論は、自然科学における表象主義的認識論と平行して形成されてきた。近年の科学論では、自然主義的存在論の特徴である実在の連続性と内的世界の離散性はさまざまな仕方で批判されてきた。しかし現在もなお、物理を代表とする科学実践は表象主義的認識論を、少なくとも部分的には自らの実践の妥当な記述として受け入れることが可能であり続けている。

本論では、「物理」を表象主義的な実践として捉えながら、自らの実践を「物理」とは異なる「非自然主義的」なものとして捉える固体地球物理学者たちの実践の特徴を、「融合」という概念のもとに描き出す。決定論的な予測が困難な複雑系を扱う固体地球科学者たちは、ベイズ統計学を基礎とする確率論的な手法に基づき地球の内部状態を推定する。彼らの実践は、「観測データへの不信」や「ア・プリオリなデータ」といった一見すると奇妙な観念によって特徴づけられる。「融合」の科学においては人間の仮定や評価が一種の「データ」として扱われ、モデルとデータは単純に「比較」されるのではなく、「インバージョン」や「データ同化」によって観測データがモデルへと「取り込」まれる。このことにより、人間の評価と観測データが渾然一体となった「成果」が生み出される。そのような「成果」は、もはや世界と人間の二元論を前提とした「客観的な表象」ではなく、観測データと人間のモデル評価が独特の仕方で入り混じったハイブリッドなイメージである。

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2020 日本文化人類学会
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