文化人類学
Online ISSN : 2424-0516
Print ISSN : 1349-0648
ISSN-L : 1349-0648
特集 歓待の人類学
もてなしのポリティクス
中国雲南省ハニ族における饗宴を事例として
阿部 朋恒
著者情報
キーワード: ハニ族, 饗宴, 儀礼, 客人, 歓待
ジャーナル フリー

2020 年 85 巻 1 号 p. 110-126

詳細
抄録

雲南省紅河ハニ族イ族自治州紅河県一帯のハニ族村落では、世帯を単位として催される儀礼とそれに伴う宴がかつてない頻度で催され、多くの財と時間が費やされている。今日のハニ族村落において、饗宴は欠くことのできない社交の場であり、そこには祭祀する対象への信仰や祈願よりも、むしろ互いにもてなし、もてなされる歓待への希求こそが垣間見える。本稿は、ハニ族村落における宴を舞台とした客人歓待の分析を通じて、以下の2点について検討する。

第1の論点は、既知の社会関係において歓待が果たす作用についてである。従来の歓待論においては、主として共同体の外より来訪する他者の迎え入れをめぐる葛藤に焦点が当てられてきたため、既知の社会関係の内側にあっても常に歓待の場が求められていることの意味はかならずしも十分には追求されてこなかった。本稿ではこのことを踏まえ、ハニ族村落において宴を通じた歓待が繰り返し要請されることの意味を考察する。第2の論点は、歓待の場に表れる主人と客人の関係の多層性についてである。ハニ族村落における宴は、家畜の肉をふるまう/ふるまわれるという非対称的な行為によって、主人と客人を分かつ歓待の論理が作動する場として成立する。ただし、山腹に拓かれた村落には公共の集会施設がないため、宴の規模が大きくなるにつれ、歓待の場は住人たちの屋敷地にも及ぶ。本稿では、ハニ族村落において最も多くの人々が集う葬送実践を事例に、客人を私的領域へと迎え入れ、時間をともにする行為としての饗応を担う人々がみせる能動的な動きに着目することで、歓待の場に表れる関係性を明らかにする。

著者関連情報
2020 日本文化人類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top