本論文の目的は、オーストラリア中央砂漠で暮らすアボリジニ、とりわけアナングを自称/他称とする人びとを対象とし、生活給付金を利用したキャンバス販売や、その一連の過程で重ねられる分配行為の分析を通じて、酒を購入するための資金の獲得のプロセスに立ち現れる人びとの選択や生き方の一端を示すことである。
従来のアボリジニ研究では、アボリジニが主流社会の体制を組み換えて独自に生活を再編していることが指摘される一方、飲酒者は「近代化の犠牲者」として描き出されてきた。本論文では、これまで文化表象や社会構築の議論において看過されてきたアボリジニの飲酒者に着目し、彼らが日々のキャンバス(アボリジニ・アート)販売を通じて、酒の購入資金を手に入れる術を読み解く。具体的に取り上げるのは、キャンバスを制作・販売する人びとのあいだで繰り広げられるもののやりとりである。彼らは分配の創意工夫によって他者からの嫉妬を回避しながら、キャンバスや現金など酒の購入資金となるものを手に入れる。同時に、分配に対する他者からの期待を過度に裏切らないことで集団内の相互扶助を維持する。これらの分析から、先住民と非先住民の社会や文化が交錯するポスト植民地状況において、酒の購入資金の獲得に奔走するアナングたちが分配の義務に従うわけでもなく、かといって個人の利益追求に向かうのでもなく、「ウェイ(way)」と呼ばれる状況応答的なやり方を編み出していることを指摘する。