文化人類学
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第16回日本文化人類学会賞受賞記念論文
呪術、隠喩、同型
21世紀の構造主義へ
春日 直樹
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2022 年 86 巻 4 号 p. 527-542

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抄録

呪術的行為を構成する直裁的な表現は、まったく異なる2つのカテゴリーがいかに結合できるのかを人類学者に問いつづけてきた。本稿はパプアニューギニアの民族誌に報告された呪術的行為を、数学の圏論での同型の観点から再解釈する。まずは、生者の領域で呪術を構成する要素の集合と霊の領域での同様な集合とが同型であることを明らかにして、それによって2つの間に置き換えが可能なほどの等しさが生まれていることを導く。生者の領域における操作は霊の領域における操作と対応し、反対に霊の領域での操作も生者の領域での操作に対応することが必然的に成り立つ。呪術の研究が傾注してきた異なるカテゴリーの結合、特有の因果関係の追求は、このように同型の観念によって簡潔に説明できる。これらはすべて同型に由来しており、同型の必然的な帰結である。隠喩的な表現をはじめとする呪術のもろもろの特徴は、同型からの要請を充たすための工夫や努力とみなせば、その限定的な役割が明らかになる。

ただし、生者の側の集合の要素と霊の側の集合の要素とが1対1に対応する、という同型の条件はまったく保証されていない。パプアニューギニアの人々はどのように保証されていないのか、どのように努力すべきなのかをよく知っているようであり、この条件下で同型の実現に励み、つまりは呪術の実践をつづけている。呪術的行為は、同型の理念に依拠するとともに同型の実現を志向する、という重要な性質がここに明らかになる。

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2022 日本文化人類学会
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