文化人類学
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原著論文
世俗主義の葛藤を生きるトルコの宗教的少数派
イスタンブルに住むアレヴィーの若者たちの信仰実践
今城 尚彦
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2022 年 87 巻 1 号 p. 026-043

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抄録

本稿の目的は、ムスリムの少数派アレヴィーの人々の事例から、世俗主義を国是とするトルコ共和国において少数派として生きることの葛藤を明らかにすることである。西洋近代において、世俗主義は宗教的制約に左右されない民主的な討議を可能にするものとして捉えられてきた。しかし人類学において世俗主義批判と称されるアプローチでは、世俗主義によって言論の自由を保障されるためには「宗教」の範囲を規定する世俗主義の文法に従わねばならないというジレンマが指摘されている。このジレンマは、トルコにおいて多数派のスンナ派ムスリムから差別されてきたアレヴィーにとって特に深刻なものである。1990年代に生じた宗教復興的な運動の結果、彼らへの差別は比較的改善したとされるが、その後のアイデンティティ・ポリティクスが世俗主義の枠組みの内部で展開せざるを得なかったために、アレヴィーの儀礼実践が生活に占める領域も縮小したことが指摘されている。このことはフィールドにおいて「共同性の喪失」とも呼びうる葛藤を生み出しているが、他方でそれを世俗主義の権力に還元してしまうと、人々が共同性の喪失をいかに乗り越えようとしているのかを考えることができない。そこで本稿は、イスタンブルにおけるアレヴィーの集会所に集まる若者たちの事例から、彼らが都市においていかなる共同性を模索しているのかを明らかにする。

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2022 日本文化人類学会
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