文化人類学
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特集 オートエスノグラフィで拓く感情と歴史
戦争の批判的家族誌を書く
家族のヴァルネラビリティをめぐるオートエスノグラフィ
北村 毅
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2022 年 87 巻 2 号 p. 285-305

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抄録

オートエスノグラフィは、個人に閉じこめられたヴァルネラブルな記憶を解放し、社会的に共有(分有)可能な物語へと再編・再演するナラティヴ・アプローチとして方法論化されてきた。オートエスノグラフィのパフォーマティヴかつ介入的な立ち位置は、クリティカルという言葉を伴って言明されることが多く、本稿では、批判的家族誌というオートエスノグラフィの新たな形式を提唱し、その可能性を探る。具体的には、祖父の戦争体験をめぐる家族の生活誌の厚い記述を通して、私自身の家族の歴史性(historicity)に対する批判的介入を試みる。祖父が日中戦争の帰還兵である私の家族では、中国における加害の記憶が家族史の争点となってきた。本稿では、祖父と父、父と私の関係に焦点を当て、その記憶を聞かされてきた母の存在を軸に、過去の暴力が家族の中でどのように語られ、再演されてきたのかを、文化的・社会的・歴史的文脈に位置づけながら記述する。家族とは、「私たち」が自己の来歴を物語化し、過去と現在に対してコミットメントするフィールドである。その家族に対して民族誌的にアプローチすることを通して、歴史的存在としての「私たち」を規定する「連累(implication)」の所在を明らかにしたい。

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2022 日本文化人類学会
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