文化人類学
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特集 孤独とつながり──ポスト関係論的音楽論に向けて
「個別的なもの」の日常的編成
楽器をめぐる「迷い」と「決断」の自己エスノグラフィー
吉川 侑輝
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2022 年 87 巻 3 号 p. 461-479

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抄録

本稿は、音楽家たちの社会生活の一画をなす活動のひとつとしての「ひとりで行う活動」の探求を通じ、関係論的な音楽研究を省察的に検討する試みである。ひとりで行う活動に関連づいた概念のひとつに、「個別的なもの(the individual)」がある。本稿が試みるのは、「個別的なもの」を、それが日常的実践において志向されている水準において特徴づけることである。具体的には、筆者自身によって断続的に取り組まれている楽器の弦の選択活動を対象として、その過程を記述したフィールドノートに見出される「判断に迷うこと」や「決断を下すこと」が生じている場面の分析を行う。結果として、こうした出来事の編成プロセスが、個人が持つ能力への疑いへの対処として、その積極的遂行の結果として取り組まれていることが明らかになる。こうした作業を通じて本稿は、いわゆる関係論的な音楽研究が可能となる条件としての日常生活世界の探求の重要性を主張する。

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2022 日本文化人類学会
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