本稿は、中国雲南省文山チワン族ミャオ族自治州のモン(ミャオ族の自称集団)のスカートを事例に、そのプリント化と手仕事化という一見相反する現象から、中国における少数民族の文化のオーセンティシティ獲得のプロセスを明らかにするものである。多民族国家である中国では、少数民族の装いは民族集団間の差異化をはかるための「民族衣装」として機能してきた。そのため、外形の違いといった視覚情報が重視され、染織や刺繍といった手仕事は失われつつあった。モンのあいだでも、この30年ほどのあいだでスカートに施されるろうけつ染めやクロス・ステッチが、スクリーンプリントやプリントの化繊布に置きかわるプリント化が進展した。
しかし近年、手仕事を取り入れた「古いスタイル」が市場で販売されるようになった。それに伴い、モンのあいだでも手仕事への再評価が高まり、商品として経済的価値を持つものとして再認識されるようになってきた。この状況は一見、無形文化遺産登録や博物館事業の展開による伝統への回帰だとも捉えられる。しかし「古いスタイル」には「伝統」としての手仕事と同時に「革新」としての商品化という役割も付されており、本稿ではそこに中国独自のオーセンティシティ獲得のプロセスがあることを明らかにする。