文化人類学
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原著論文
祝福の無媒介性、祈りの共同性
フランスのジプシー・ペンテコステ運動の事例から
左地 亮子
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2024 年 89 巻 3 号 p. 355-375

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抄録

ペンテコステ派キリスト教は、20世紀後半に世界中で信徒数を増大させた。カトリックを信仰していたフランスの「ジプシー」の間でも「ジプシー福音宣教会」主導のもと、大規模な改宗が進む。ジプシー・ペンテコステ運動は、世俗化が進むフランス社会にあって独自の宗教に閉じこもるセクトといった汚名がきせられ、人類学・社会学の研究においても、「ジプシーの民」を「選ばれた民」として提示する教会のエスニック・ポピュリズムや宗教的な汎ロマ主義が強調されてきた。本稿では、この宗教運動と民族主義との繋がりを再考すべく、信徒が生きる神学的世界に注目しながら、個人主義などの西洋近代的概念を問い直してきた「キリスト教の人類学」の議論を採りいれ、信徒の神との関係をめぐる語り、及び祈りの場面での個的かつ集合的な実践を検討する。神との直接的な対話や無媒介的な祝福を促す宗教実践が、旧来の親族的紐帯をも揺さぶる新たな個の感覚を立ち上げると同時に、祈る身体の共振や情動の発生を導き、民族の境界にとらわれない共同性を生成するさまを描きだすことで、民族主義をめぐる道具論的理解やキリスト教の個人主義概念には汲みつくされないペンテコステ派ジプシーの宗教体験の具体的諸相を明らかにする。

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2024 日本文化人類学会
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