文化人類学
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原著論文
日本におけるインド料理店経営者及び料理人の生計活動と生存戦略
グローバルに移動を続ける人達の生存戦略と地域社会の対応
岩間 春芽
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ジャーナル 認証あり

2025 年 90 巻 1 号 p. 035-053

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抄録

本論文では日本の某所でインド料理店を経営するA社を事例として取り上げ、経営者と料理人がどのように生計活動を送り、そこにどのような生存戦略があるのかを論じることを目的とする。A社は複数のインド料理店を経営し日本社会に溶け込んでいるように見えるが、収益のあげ方を見ていくとそうとも言い切れない。A社の社長は、日本人配偶者がおり永住者である、会社設立の経験があるといった、外国人の中では強い立場にあるということを生かし、ネパールから料理人を呼び寄せ多額の手数料を支払わせるというブローカービジネス、内装工事した店舗の造作譲渡や名義貸しをし、それを主な収入源としてきた。上層部と各店舗の料理人の間には大きな収入格差があり、インド人、ネパール人の間で下位の料理人から上層部へ金銭が吸い上げられ、その資金でネパールで不動産に投資するといった形でネパールへ還流するという構造がある。A社は同胞向けのビジネスを通して、料理人が日本で生活していくための移住システムを構築してきたが、日本では違法とされる行為を繰り返したため、ビザが更新されなくなりブローカービジネスは終焉を迎えた。社長は工場建設に乗り出すが、日本の企業経営を理解していなかったため、事業は失敗に終わった。本論文では移民自身のみならず、地域社会の関係者の視点も踏まえることで、地域社会の対応によっては移民は事業継続や存在自体を脅かされうるということを示す。

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2025 日本文化人類学会
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