日本循環器病予防学会誌
Online ISSN : 2759-5323
Print ISSN : 1346-6267
予後をみすえた管理の実際
高脂血症ではなく患者さんを診る
瀬川 郁夫
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2001 年 36 巻 1 号 p. 9-15

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抄録
疫学研究と大規模臨床介入試験により、Evidense Based medicineの観点からは、脂質低下療法による動脈硬化予防効果は確立している様に見える。しかし、欧米で実証された脂質低下療法が、日本人に同様の効果をもたらすかは不明である。個々の患者さんの治療効果の予測は、今なお困難である。現在、回答を求めて本邦でもいくつかの臨床試験が進行中である。
一方、患者さんは脂質低下療法をどう考えているのか。アンケート調査の結果、6割の患者さんが自分のコレステロール値を知っていた。自分から進んで服薬を開始した患者さんは少ないが、服薬を中止することには不安を感じており、多くの患者さんが服薬続行を希望していた。脂質低下療法により、患者さんの期待するように、健康余命や充生度 (Quality of Life) は改善するのか?検討すべき疑問と課題は多い。
脂質低下療法により、国家予算や健康保険財政から見た経費対効果比の改善が期待されている。一方、患者さん個人の医療費は、どう変化するのか。脂質低下薬1剤の追加による自己負担増加額は、年齢と保険の種類により、1ヶ月あたり0円から約2,000円と幅が広い。70歳以上の患者さんの自己負担は定額530円で、受診率が高い理由の一つと考えられる。
生命予後と生活の質を加味した健康指標や充生度向上のためには、血清脂質レベルのみにとらわれず、個々の患者さんの危険度を考慮した上で、患者さんの希望を活かした治療法の選択が望まれる。今以上に、的確な情報提供と質の高い患者教育が必要と考える。
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© 社団法人 日本循環器管理研究協議会
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