日本循環器病予防学会誌
Print ISSN : 1346-6267
地域における急性心筋梗塞罹患の実態
新潟県の一地域における調査成績
田辺 直仁
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 38 巻 1 号 p. 6-15

詳細
抄録

新潟県内一地域の基本健康診査 (健診) 受診者7,263名の追跡結果から、急性心筋梗塞と冠動脈疾患の絶対リスクを5年間の推定罹患確率として求めた。この結果を基に、健診で血清総コレステロール高値者を認めた場合の要医療の判断基準について検討した。
5年間の追跡調査の結果、急性心筋梗塞17名、冠動脈死疑い13名、および狭心症14名、計44名の冠動脈疾患罹患が確認された。急性心筋梗塞をエンドポイントとした多変量のCox比例ハザードモデル分析の結果、血清総コレステロール値250mg/dl以上が危険因子と判定された。しかし、罹患との関連は他の危険因子 (糖尿病現症、Bodymassindex≧24.2kg/m2、収縮期血圧≧140mmHg、血清HDLコレステロール値く40mg/dl、野菜摂取頻度が少ない) のいずれかと重複していた場合のみに認められ、重複していない場合の罹患リスクは血清総コレステロール高値であっても低いと考えられた。
冠動脈死疑いと狭心症を含めた冠動脈疾患について絶対リスクを検討した結果、5年間の推定罹患確率が10%を超えるのは血清総コレステロール値250mg/dl以上で、かつ他の危険因子を重複した65歳以上の男性のみであり、より若い男性や、女性においては10%を超えなかった。ヨーロッパのガイドラインでは5年間の冠動脈疾患罹患確率が10%以上の場合に薬物治療を考慮するとされており、仮にこの基準を今回の結果に適用した場合には、薬物治療適応者はかなり限定的となる。
以上の結果から、糖尿病や高血圧のように医療の管理が必要な危険因子の重複例を除けば、血清総コレステロール高値者に対する要医療の判断は慎重に行うべきと考えられた。血清コレステロール値や他の危険因子の状態から推定される冠動脈疾患の罹患確率 (絶対リスク) と、薬物治療によって得られる一次予防効果を情報提供し、これを基にした本人の意志を医療機関受診の最も重要な判断基準にするべきと考えられる。そのための基礎資料がさらに必要であると考えられた。

著者関連情報
© 社団法人 日本循環器管理研究協議会
前の記事 次の記事
feedback
Top