抄録
先行研究は,主に企業活動や金融制度面において,ソフトな予算制約がどのように具現化されるかというものを検討してきた。本稿は,医療部門に特化した論考である。予算のソフト化に関わる 5 つの主要なプレイヤー達(即ち患者,医師,病院経営者,政治家そして病院所有者)の動機と,その相矛盾する行動とを描く。動機を検討すれば,なぜ浪費しようとする傾向が現れるのか,そしてなぜ予算のソフト化に向かおうとするのか,ということの理由が明らかとなる。意思決定のあらゆる水準で,あるいは資金を提供する過程のあらゆる段階で,浪費を拡大させ,債務を超過させようとする圧力が働く。本稿は,ソフトな予算制約という病理と,多様な所有形態(国有・非国有・非営利的そして営利的といった形態)との関わりについて考察する。また最後に,予算制約をハード化することの功罪は何か,そしてそれは道徳的矛盾や倫理的事象に直面した主体の意識にどのように反映されるのか,という規範的観点から,この現象を検討する。