2002 年 19 巻 3 号 p. 174-178
ヒトは,Homo sapiens,すなわち「智恵あるヒト」という名前でよばれている.種の系統としてはサルの仲間であるが,その中でヒトだけがことばを有している.ヒトが「話す」ためには,発声発語器官のみならず,脳にその機能を担う領域が存在しなければならない.19世紀後半に始まった言語領域の研究においては,つい最近までブローカ領域,ウェルニケ領域,そして左角回の役割のみが重要視され,その他の大脳皮質領域が言語にとって果たす役割については,十分論議されることがなかった.症状と病変部位との対比研究や,PETスキャン,fMRIなどを用いた最新の画像研究により,近年の研究からは,人の言語能力は古典的な言語領域のみで営まれるものではなく,言語に関係する多くの領域の複合的な営みによって実現されることが示されてきた.臨床においても同様な視点をもって言語症状を分析し,また実験を行っていく必要があろう.