抄録
脳損傷の結果として生じる音楽的能力の障害である失音楽症は,失語症の臨床研究を通じて,古くから多くの神経心理学者に関心をもたれてきた.と同時に,音楽能力のさまざまな面を評価するいくつかの総合的なテストが開発されてきている.しかし,それらの検査課題は,専門的な音楽教育を受けてこなかった一般の患者には難しい複雑なものが多く,遂行困難であったり,結果に信頼性のないものもみられた.
著者らが行った,アンケートとSeashoreテストによる失語症および聴覚失認患者の調査研究から,聴覚失認患者を除き,失語症患者は音楽の“聴く”,“歌う”,“楽器演奏”のいずれかの能力は充分に保たれており,言語障害がありながらも音楽を楽しむ機能は残存していることがわかった.したがって,言語訓練の中で失語症患者に音楽をどのように活用していくかが,私ども言語治療士の今後の課題であると思われる.