日本語の格助詞は文の文法関係を表示する役割を持っている.助詞獲得に関する先行研究では,格助詞「が」「を」の使用と理解の開始時期にはずれがみられる.本研究では,表出課題(助詞の使用)と理解課題(助詞の正誤判断)の比較実験を,3歳から5歳の健常児103名に横断的に実施し,他動詞文における「が」「を」の習得過程を検討した.
格助詞の使用には,「が」>「を」,可逆課題>非可逆課題の傾向があり,「が」は4歳での行為主表示のための使用を経て,5歳で主語表示という大人の文法に従った使用に至ることがわかった.
文の正誤判断は,3歳から4歳で反応可能となった.文法適格文は4歳で90%以上の正答率となったが,不適格文は5歳でも40%程度の正答率で,否定判断は難しかった.判断の手掛りには,自立語の順序・助詞の順序と表示機能が4歳台から相乗的に用いられており,格助詞の文法機能が優位な手掛りとなるのは5歳以降であった.
表出課題と理解課題を比べると,格助詞の使用は正誤判断成立に先行して始まっていた.格助詞の自発的使用によって幼児の文法意識が高められ,文中の格助詞の理解が促されることが考察された.
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