抄録
本稿では,発達遅滞児の前言語期における対物,対人行動において,早期指導の場で彼らの象徴機能の形成を図っていく上での問題について論じた.
まず対物行動に関して,物の本来の用途を理解した上で,その物を別の物に代理的に使用するといった物の用途についての〈二重の認識〉を育てることが発達遅滞児では課題であることを指摘した.前言語期での子どもの自発的,能動的な対物活動を豊かにすることがシンボルの獲得やその内容の豊かさにつながり,物の用途の二重の認識もそのような活動の中で子ども自身が進めていけるのではないかと考えた.
次に対人行動では,showingの問題を取り上げ,発達遅滞児には,〈attention getting behavior〉に発達的弱さを抱えている子どもが多いことを指摘した.近年,言語獲得の基盤として物のやりとり行動が注目され早期指導にも生かされている.そのような他者との相互交渉過程で,物を行き来させることやみせることだけでなく,attention getting behaviorを引き出し,子ども自身が自己を表現,みせていくこと,共演性やplayfulnessを感じ取れ〈場の構造化〉をより早期から指導の場で図っていくことの大切さについて強調した.