本研究においては,精神分析学者である,Winnicott, D.W. の非行理論を紹介し,彼の対象関係論に基づいて,非行少年の両親像と心理状態との関連を実証的に検討することを試みた.Winnicottは非行を発達早期の発達促進的環境(愛情)の剝脱との関連から論じ,非行は少年の希望の表現であると述べている.さらに,青年期においては,青年は愛情剝脱と類時した体験をし,抑うつ的で無気力なドルドラム(Doldrums)におかれるが,子ども時代のように両親に同一化することもできず,こうした状態からの逃避の試みとして非行が利用されるとされている.
方法としては,少年鑑別所入所中の非行少年115人(男子84人,女子31人)と,健常の中学生・高校生479人を対象に,両親像と抑うつ状態(CDI),特性不安,孤独感,絶望感を質問紙によって調査した.その結果,非行少年,特に女子は,健常の青年に比べ抑うつ傾向や不安が高く,深刻なドルドラム状態を経験していることが示唆された.また彼らの両親像は侵入的操作的で,愛情供給に乏しいものであった.さらに,非行少年の両親像と心理状態の関連の仕方には性差があり,ともに同性の親像が自我発達を促進する機能を果たしていないことが明らかになった.