本研究は,被虐待児のP–Fスタディへの反応を分析することで,虐待の被害児童における攻撃性に関する知見を得ることを目的に実施された。調査対象として,児童相談所のケース記録の中から,P–Fスタディが実施されていた215名分(虐待群65名,比較群150名)の児童のデータが回顧的に抽出された。分析に際しては,まず初めに虐待群の平均値を標準化データにおける理論値(ノルム)と比較し,続いて比較群との群間における差異を検証した。ノルムおよび比較群との差異が両方有意であったものを虐待群の特徴ととらえ,多変量分散分析とボンフェローニの修正を施したt検定の結果から,虐待群ではI-AとGCRが高くE-Aが低いという知見が得られた。この分析結果に対して,自責傾向(I-A)の高さは他責傾向(E-A)を抑制した結果との解釈がなされ,GCRの高さは過剰適応のためであると考えられた。本研究知見と先行研究で得られている知見とを重ね合わせることで,被虐待児は虐待されるかもしれない環境下では攻撃性を抑制しており,虐待の恐怖が取り除かれると攻撃性を爆発させるという心理的な傾向を持つことが示唆された。