犯罪心理学研究
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児童虐待を受けた女性サバイバーが30歳代に至るまでのプロセス
藤野 京子
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2010 年 47 巻 2 号 p. 33-46

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抄録

本研究では,児童虐待の経験を乗り越えていくプロセスを明らかにすることを目的とした。そのため,児童のころ親から虐待を受けた経験を有しながらも,調査時点においては自身を主観的に幸福であると感じている30歳代の女性16名を対象に,その被虐待経験によってどのような影響を受け,さらにどのような経過をたどって今日に至っているのかについて,当事者の視点から明らかにすることを試みた。半構造化面接による面接調査を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析を行った。その結果,虐待されても当初はその行為を十分問題視できないものの,それが不当であると気づくことが,受身の被害者のままでいることからの脱却の試みにつながること,また,虐待への恐怖心が少なくなるにつれ,虐待がなぜ生じたかを多角的視点から理解しようとし,虐待をしてしまう親に対する洞察も深められるようになっていくことが明らかになった。加えて,虐待場面のみならずそれ以外の生活場面も含めて,自己効力感に気づけるような体験をすることが,社会適応を促す原動力となっていることも明らかになった。なお,虐待を受けなくなって以降も,虐待を受けたことや虐待を受けた自身に対する内的処理が変容していくことが示された。

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© 2010 日本犯罪心理学会
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