犯罪心理学研究
Online ISSN : 2424-2128
Print ISSN : 0017-7547
ISSN-L : 0017-7547
資料
破壊的行動障害の連鎖と不適切養育経験及び非行抑制傾向の関連
渕上 康幸
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 48 巻 1 号 p. 1-10

詳細
抄録

発達障害は非行のリスク因と考えられているが(発達障害→非行),すべての発達障害者が非行に走るわけではない。また,虐待が非行の先行要因であることは多くの研究により明らかにされているが,虐待の先行要因についての知見は之しく,未然防止のための手がかりが不足している(?→虐待→非行)。本研究では,虐待の先行要因として発達障害を想定した(発達障害+虐待→非行)。むろん,すべての被虐待児が非行に走るわけではなく,不適切な養育経験にかかわらず,非行に走らない者もいる。こうした個人内の保護因を説明する概念として近藤(2004)による「非行抑制傾向」を想定した(虐待→非行抑制傾向≠非行)。これらの関連を明らかにするため,アナログ研究の手法による自己記入式の質問紙を用いて,全国の少年鑑別所入所者を対象とする横断調査を実施した。有効な回答を得られた1,842名(うち女子250名)について,男女別に構造方程式モデリング(SEM)による因果推論を行った結果,小学生時の反抗挑戦性障害(ODD)傾向が強いほど,家族からの暴力や放任といった不適切な養育経験を有しており,不適切養育経験は素行障害(CD)傾向を高めるリスク因であることを示す因果連鎖が認められた。また,罰感受性や罰回避性,抑制性といった個人内の非行抑制傾向は,CD傾向を低減する保護因であった。加えて,非行抑制傾向は,不適切養育経験には左右されず,静的保護因の可能性が示唆された。齋藤・原田(1999)が提唱する破壊的行動障害の連鎖モデルに,不適切養育経験と非行抑制傾向という変数を加えると,ODDからCDへの因果連鎖は消失した。ODDがCDへ移行するか否かの鍵を握るのは,不適切養育経験と非行抑制傾向であり,これらに介入することで,破壊的行動障害の連鎖が断ち切られる可能性が示唆された。

著者関連情報
© 2010 日本犯罪心理学会
次の記事
feedback
Top