抄録
症例は,71歳の女性.手術切開創瘢痕創にうずら卵大の腫瘤を触知して来院した.既往歴として1年前に虫垂の進行癌(pT4N0M0)に対する手術歴があった.血清CA19-9値とCEA値はそれぞれ7.2 u/ml,1.5 ng/mlで,18F-FDG/PET検査でもMaximum standardized uptake valueは1.9であったが,虫垂癌の孤立性腹壁転移が疑われた.手術所見では,腫瘤は腹直筋内から発生した22×17×12mmの充実性腫瘍で,組織学的に腹壁デスモイドと診断した.今回,虫垂癌の術後に手術創部に発生した稀な腹壁デスモイド腫瘍の1例を経験した.良性腫瘍である腹壁デスモイド腫瘍と虫垂癌の腹壁転移は,ともに稀な疾患であり,両者の鑑別は治療法決定のうえでも重要であると考えられた.