抄録
今回われわれは, 腹部鈍性外傷後に小腸腹壁瘻を形成した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。症例は33歳, 男性。仕事中に下腹部をフォークリフトに挟まれ当院へ搬送された。来院時には下腹部に皮下出血斑と軽度腹膜刺激症状を認めたが, 腹部単純写真では腹腔内遊離ガスはなく, CT検査でも腹腔内に液体の貯留はなく経過観察とした。しかし, 入院23病日に白血球増多と右下腹部痛の増強を認め, 再度CT検査を行ったところ右腹壁を中心に膿瘍の形成を認めた。試験開腹したところ, 回腸末端より30cm口側で穿孔し, 腹壁と癒着しており, この部位で瘻孔形成しているものと思われた。腹部鈍性外傷に伴う消化管損傷は比較的頻度が高く, 診断には腹部症状が重要であるとされている。しかし, 稀に本例のように長時間が経過したのちに症状を伴ってくることもあり厳重な経過観察が必要である。