抄録
心拍動下冠状動脈バイパス術 (OPCAB) において,新しい中枢側吻合デバイスである Enclose II の有用性,安全性について検討した.2002年1月から2006年12月までに当院において施行した単独 OPCAB 症例100例のうち, aortic connector (6例)および PAS-Port (3例)を使用した9例を除いた91例(平均年齢71.0歳,平均遠位側吻合数2.5枝)を対象とし,中枢側吻合手段別に比較検討した.中枢側吻合手段としては, Enclose II (E群40例),部分遮断鉗子( S 群17例)を使用し,aorta no touch(N群)は34例であった.グラフト数において, E 群は N 群より有意に多かった( E 群: N 群=2.7本:1.7本,p<0.0001).また,遠位側吻合数においても, E 群(3.1枝)は S 群(2.6枝,p=0.0486)および N 群(1.8枝,p<0.0001) よりも有意に多かった.退院前,84人(92.3%)に術後造影検査を施行したが,術後の早期開存率( E 群:S群: N 群=99.1%:97.8%:98.0%)に差はなかった.また,36例に1年後の造影検査を施行したが,1年後開存率( E 群: S 群: N 群=95.8%:91.3%:95.2%)においても差はなかった.また,すべての群で術後脳血管障害は認めなかった. Enclose II は安全かつ容易な free graft の中枢側吻合が可能であり,グラフトの選択幅や吻合部位の選択肢を広げることが可能であった.