日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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ISSN-L : 0285-1474
37 巻, 2 号
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原著
  • 渡辺 卓, 柳沼 厳弥, 濱崎 安純, 河原井 駿一
    2008 年 37 巻 2 号 p. 69-73
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    非閉塞性腸管虚血 (NOMI) は希であるが,早期診断が難しく,腸管壊死をきたし予後不良である.1999年4月から2003年9月まで,開心術後1,040例のうち NOMI は5例であった.全例,発症時に大腿部の大理石紋様と,血中乳酸値の上昇を認めた.上腸間膜動脈 (SMA) 造影を行い, SMA 内に PGE1500μg を30分で持続動注した.腹膜刺激症状を呈した3例に開腹術を施行した.5例中4例を救命した. NOMI の診断では血中乳酸値の上昇とともに皮膚の大理石紋様は臨床的にきわめて有効な指標であった. NOMI が疑われた場合,血管造影による早期診断,早期治療が肝要と考えられた.
  • 田村 清, 大島 永久, 白井 俊純, 田崎 大
    2008 年 37 巻 2 号 p. 74-77
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    心拍動下冠状動脈バイパス術 (OPCAB) において,新しい中枢側吻合デバイスである Enclose II の有用性,安全性について検討した.2002年1月から2006年12月までに当院において施行した単独 OPCAB 症例100例のうち, aortic connector (6例)および PAS-Port (3例)を使用した9例を除いた91例(平均年齢71.0歳,平均遠位側吻合数2.5枝)を対象とし,中枢側吻合手段別に比較検討した.中枢側吻合手段としては, Enclose II (E群40例),部分遮断鉗子( S 群17例)を使用し,aorta no touch(N群)は34例であった.グラフト数において, E 群は N 群より有意に多かった( E 群: N 群=2.7本:1.7本,p<0.0001).また,遠位側吻合数においても, E 群(3.1枝)は S 群(2.6枝,p=0.0486)および N 群(1.8枝,p<0.0001) よりも有意に多かった.退院前,84人(92.3%)に術後造影検査を施行したが,術後の早期開存率( E 群:S群: N 群=99.1%:97.8%:98.0%)に差はなかった.また,36例に1年後の造影検査を施行したが,1年後開存率( E 群: S 群: N 群=95.8%:91.3%:95.2%)においても差はなかった.また,すべての群で術後脳血管障害は認めなかった. Enclose II は安全かつ容易な free graft の中枢側吻合が可能であり,グラフトの選択幅や吻合部位の選択肢を広げることが可能であった.
  • 上松 耕太, 青木 満, 内藤 祐次, 藤原 直
    2008 年 37 巻 2 号 p. 78-81
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    肺動脈弁欠損を伴うファロー四徴症の初回手術の成績は不良である.また遠隔成績の報告も少ない.今回,当院で施行した肺動脈弁欠損を伴うファロー四徴症に対する根治術後中期遠隔期成績の検討を行った.対象は1995年から1999年までに手術を行った5例で,手術時平均年齢,手術時平均体重と術前PA indexはそれぞれ9カ月(1~29カ月),5.2kg(3.6~9.1kg),1,910(496~3,308)であった.5例中3例は術前PA indexが2,000をこえており呼吸器症状を認めていた,さらにうち2例は術前から人工呼吸器による呼吸管理が必要であった.この3例は乳児期に手術を行う必要があった.根治術は心室中隔欠損(VSD)閉鎖,右室流出路再建と肺動脈形成を行い,肺動脈形成方法は前壁の切除と後壁の縫縮を行った.右室流出路再建には,肺動脈拡張が著しく(PA index>2,000)呼吸器症状を呈している3例に自己心膜の弁付き心外導管を,それ以外には1弁付きtransannular patchを用いた.全例耐術し,遠隔期死亡は1例で,外来で経過観察中に呼吸器症状を呈したのち突然死した.生存例(follow up平均86カ月)は全例NYHA心機能分類class Iで呼吸器症状は認めなかった.術後平均70カ月後に施行したカテーテル検査では,平均右室駆出率(RVEF),右室圧(RVp),右室圧/左室圧(RVp/LVp),肺動脈圧(PAP)はそれぞれ51%(38~57%),81mmHg(36~105mmHg),0.87(0.41~1.11),35mmHg(25~52mmHg)で,三尖弁逆流(TR)は I度(1例),II度(3例),肺動脈弁逆流(PR)は I度(2例),II度(2例)と,右室流出路狭窄と右室圧の上昇を認めるものの右心機能は保たれていた.また,術後平均PA indexは1,059(572~1,853),術後PA index /術前PA indexは平均0.72(0.35~1.15)と術前肺動脈拡張が著しく呼吸器症状を呈する群とそうでない群ともに肺動脈の再拡張は認めなかった.再手術は右室流出路狭窄による右室圧上昇に対し右室流出路再建術を生存例4例中3例に行ったが,3例中2例は心外導管を用いた症例で1例はtransannular patchで再建した症例であった.肺動脈前壁切除,後壁縫縮と弁付き心外導管または1弁付きtransannular patchによる右室流出路再建を行うことで,術後遠隔期に再手術が必要となるが,肺動脈の再拡張はなく術後中期遠隔期成績は良好であった.
  • 千葉 清, 幕内 晴朗, 村上 浩, 田中 佳世子, 大沼 繁子, 田所 衛
    2008 年 37 巻 2 号 p. 82-90
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    胸腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術後の対麻痺は予想しがたい合併症であり,いったん発症するとその後の生活の質 (QOL) は大幅に低下する.中枢神経の虚血性細胞死には虚血-再灌流によって発生するフリーラジカルによる脂質の過酸化障害が関連している.今回われわれは,現在脳梗塞急性期の脳保護薬として認可されている,フリーラジカルスカベンジャーである 3-methyl-1-phenyl-2-pyrazoline-5-one (edaravone) を用い,実験動物の脊髄虚血モデルにおいてその有効性を検討したので報告する.ウサギ(日本白色種)を以下の3群に分けた.手術は開腹下で腹部大動脈を20分間遮断して脊髄虚血を発生させ,そのあと遮断を解除して再灌流させた.単純遮断(20分間)のみ行ったものを A 群(n=6),再灌流30分後に edaravone 3mg/kgを緩除に静注したものを B 群(n=6), B 群に追加して再灌流24時間後,48時間後にも同量を投与したものを C 群(n=6)とした.下肢運動機能は術後24,48時間後,1週間後に Tarlov's score を用いて臨床的評価した.体性感覚誘発電位 (SEP) を術前,虚血後20分,再灌流30分後,術後24時間,48時間,1週間後に測定し,電気生理学的に脊髄機能を相対的に評価した.病理組織学的評価は,1週間後に脊髄を摘出し, HE(Hematoxylin-Eosin) 染色と KB (Klüver-Barrera) 染色,および免疫組織化学的染色で行った. A 群は6匹すべてが完全対麻痺を起こした.それに対して B 群では,術後24時間後までは6匹すべてでほぼ正常な下肢機能を有していたが,1週間後には3匹(50%)で正常な歩行が不可能となった.それに対し C 群では,1週間後も6匹中5匹(83%)で下肢運動機能が維持されていた. SEP は虚血20分後には P1 はほぼ平坦化したが,24時間後には3群ともにSEPの再現が得られた.その後 A 群は全例48時間後に, B 群は6匹中3匹で1週間後に P1 は再度平坦化した. C 群は6匹中5匹で1週間後まで SEP が維持された.病理組織学的には A 群では神経細胞が消失し, B 群ではグリア細胞の活性化が認められたのに対し, C 群のみが正常な神経細胞とグリア細胞が維持されていた.以上より, edaravone の投与が虚血-再灌流障害を抑え,脊髄保護として臨床的および病理組織学的に有効であり,反復投与はその効果をさらに高めることが示唆された.
  • 田村 清, 大島 永久, 白井 俊純, 田崎 大
    2008 年 37 巻 2 号 p. 91-95
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    人工心肺を使用した開心術後の肺障害は術後の重篤な合併症で,急性大動脈解離手術後にはしばしば認められる.今回,緊急の A 型急性大動脈解離手術後の肺障害に対し,シベレスタットナトリウムを投与し,その呼吸管理における効果について検討した.2001年6月から2006年8月までに当院において緊急手術で施行した A 型急性大動脈解離症例27例のうち,急性肺障害を合併した16例を対象とし,シベレスタットナトリウム使用群と非使用群の2群に分け,retrospectiveに比較検討した.平均年齢64.9歳,男:女=4:12.手術時間,体外循環時間,心停止時間などに両群で差はなかった. ICU 帰室時の呼吸状態の指標は, PaO2/FiO2 (使用群:非使用群=74.1:181.1mmHg,p=0.0007),A-aDO2 (使用群:非使用群=620.3:556.7mmHg,p=0.0003), respiratory index (使用群:非使用群=9.29:4.92,p=0.0002)といずれも使用群で不良であったが,術後いずれの測定時も使用群で有意に改善傾向を示していた.また,使用群で CRP は非使用群に比べ有意に低値であった. A 型急性大動脈解離術後の急性肺障害に対して,シベレスタットナトリウムの投与は呼吸機能改善に有効であり,この機序として抗炎症作用が示唆された.
症例報告
  • 森島 重弘, 小野 隆志, 本多 正知, 菅野 恵, 緑川 博文, 石川 和徳
    2008 年 37 巻 2 号 p. 96-99
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    Positron emission tomography(PET) 検査は悪性腫瘍の診断,全身転移の検索などに用いられているが,組織代謝の亢進を伴う感染症や炎症でも 18-fluorodeoxyglucose(FDG) の集積することが知られている.とくに PET とコンピュータ断層写真を同時に行う PET/CT は代謝亢進場所の正確な特定には著しい効力を発揮する.今回,軽度の炎症反応しか認めない,遅発性に発症したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) 縦隔洞炎の診断に有効であった乳児例を経験したので報告する.症例は8カ月の女児. Jatene 術,右室流出路形成術後に MRSA 創部感染を認め治療されていた.創部が治癒閉鎖してから4カ月後に創部発赤を認め,排膿ドレナージを行った.発熱などの全身症状はなく,白血球数増多, CRP の上昇は軽度であったが,創部培養で MRSA が同定された.核磁気共鳴検査では胸骨後部に膿瘍を疑わせる貯溜物を認めた. PET/CT 検査を行ったところ胸骨後部に FDG の強い集積を認めたため MRSA 縦隔洞炎と診断し,手術で確認した.
  • 山下 克司, 阿久澤 聡, 寺田 仁, 鷲山 直己, 大倉 一宏, 数井 暉久
    2008 年 37 巻 2 号 p. 100-103
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    成人期において肺動脈拡張(瘤)を認める症例は比較的希であり,併存心疾患,肺高血圧,血管炎,結合組織疾患の存在などを念頭におき精査を進める必要がある.肺動脈弁疾患を伴い,心機能改善を主目的として手術施行した2例の経験を報告する.症例1:54歳,女性.22歳時に肺動脈弁狭窄に対して交連切開術を受けていた.動悸を主訴に近医を受診し,精査で肺動脈拡張(60mm),肺動脈弁狭窄兼閉鎖不全,三尖弁閉鎖不全,発作性心房細動,慢性右心不全を認めた.手術は肺動脈弁置換(23mm生体弁),肺動脈縫縮,三尖弁輪縫縮,右房縫縮,右房 MAZE 手術を施行した.症例2:70歳,男性.労作時呼吸困難を主訴に近医を受診した.肺動脈の拡張(45mm)を指摘され当科に紹介された.精査で肺動脈弁狭窄,心室性不整脈を認めた.手術は肺動脈弁交連切開術,肺動脈縫縮術を施行した.
  • 村上 達哉, 加藤 裕貴, 牧野 裕
    2008 年 37 巻 2 号 p. 104-107
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    左上大静脈遺残に右上大静脈欠損を合併し,しかもほかに先天性心奇形を伴わないことはまれで,開心術の報告は少ない.症例は41歳,男性.労作時前胸部圧迫感を主訴に受診,僧帽弁前尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症および三尖弁閉鎖不全症と診断された. 3D-CT により左上大静脈遺残,右上大静脈欠損と判明した.ほかに心奇形はなく内臓心房正位であった.心電図は冠状静脈洞調律であった.麻酔導入後, X 線透視下に右大腿静脈から肺動脈カテーテルを挿入した.手術は胸骨正中切開により心膜を切開し,肺動脈の左後方に左上大静脈を容易に確認できた.上行大動脈送血,下大静脈脱血により人工心肺を確立したのち,左上大静脈に L 型脱血管を直接挿入した.大動脈遮断・心停止後,右側左房切開より僧帽弁に到達し,逸脱した A2 と A3 に後乳頭筋から計4対の人工腱索を立てた.僧帽弁輪形成術,三尖弁輪形成術を併施した.術後経過は良好で,僧帽弁・三尖弁逆流はともに trivial となった.手術に際し,冠状静脈洞調律を温存することは術後不整脈を予防するために重要であり,脱血管は左上大静脈に直接挿入し,僧帽弁には右側左房切開で到達することが推奨される.
  • —術前 γ グロブリン大量静注療法—
    池上 博久, 鈴木 友彰, 西村 修, 木下 武, 神原 篤志, 松林 景二, 浅井 徹
    2008 年 37 巻 2 号 p. 108-111
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.特発性血小板減少性紫斑病を合併した大動脈弁狭窄逆流症,狭心症,および発作性心房細動に対する手術目的で入院となった.特発性血小板減少性紫斑病合併症例に対する人工心肺使用下開心術では,血小板の急激な減少による出血傾向の出現が問題となることがある.われわれは,本症例に対して術前にγグロブリン大量静注療法(400mg/kg×5日間)を行った.入院時の血小板数は,9.4×104/mm3で,同療法前後で血小板数に変化はなかった.しかし,術後4日目より血小板数は増加し始め,退院日である術後12日目には術前の約2倍にまで増加し出血傾向の出現なく良好な術後経過をたどった.γグロブリン大量静注療法は,本症例のように術前血小板数があまり変わらない症例においても,術後しばらくして安定した血小板増加が期待でき,特発性血小板減少性紫斑病合併症例に対する開心術の周術期管理に非常に有用であると思われる.
  • 寺田 仁, 山下 克司, 鷲山 直己, 大倉 一宏, 阿久澤 聡
    2008 年 37 巻 2 号 p. 112-115
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.以前より遠位弓部大動脈瘤を指摘されていたが,拡大傾向を認めたため手術目的に紹介入院となった.画像上遠位弓部大動脈に頭側に突出する最大径65mmの嚢状動脈瘤を認めた.また,入院時 Hugh-Jones 分類 IV 度の呼吸障害と気管支喘息を合併しており,呼吸機能検査で1秒量が初回時0.57l,再検時0.49lと低値で, Stage IV の最重症慢性閉塞性肺疾患 (COPD) を認めた.本症例に対して待機的に弓部大動脈全置換術 (TAR) を施行した.術後2日目に呼吸離脱を図ったが,呼吸不全が顕著となり陽・陰圧体外式人工呼吸器 (respiratory therapy external: RTX) を装着し,その後 BiPAP を用いた非侵襲的陽圧換気 (non-invasive positive pressure ventilation: NPPV) と併用して再挿管を回避,周術期呼吸不全をのりきった.重症 COPD を合併した症例に対する TAR 後呼吸不全に対して, RTX と NPPV を併用した補助呼吸療法は有効であり,周術期管理に役立つと考えられた.
  • 松山 重文, 末永 悦郎, 里 学, 古賀 秀剛
    2008 年 37 巻 2 号 p. 116-119
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.57歳時より全身性エリテマトーデスのためプレドニゾロン内服を開始,61歳時に抗リン脂質抗体症候群 (APS) を指摘されワーファリン内服を開始されていた.2005年11月,急性心筋梗塞を発症し対角枝の閉塞を認め同部にステント留置を行い再開通した.2006年6月に施行された CAG で対角枝 stent 留置部の閉塞,心エコー, LVG で瘤内血栓を伴う嚢状の巨大左心室瘤を認め,手術目的に当院紹介となった.術中,心膜と心室瘤との強固な癒着を認め,癒着剥離後人工心肺確立,大動脈遮断後左心室瘤を切開した.瘤内の壁在血栓を除去したのち Hemashield patch を用いて左室形成術を施行した.病理組織学的には真性瘤であった. APS 合併症例に対する開心術は高い死亡率が報告されているが,周術期の抗凝固療法に注意することで合併症なく経過し軽快退院となった.
  • 玉岡 倫子, 平田 展章, 野尻 崇, 矢倉 明彦, 加藤 雅明
    2008 年 37 巻 2 号 p. 120-123
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    大動脈壁の全周性石灰化を有する慢性透析患者の胸腹部大動脈瘤に対し,まず腹腔動脈と上腸間膜動脈に血行再建を施行したのち,二期的にステントグラフトを挿入し,良好な結果を得たので報告する.石灰化は腹部臓器分枝にも及んでおりその血行再建にも難渋した.また,鉛管状の大動脈に対するステントグラフトのattachmentも不良で,中枢側・末梢側ともにtype I endoleakを認めたため,中枢側・末梢側ともにステントグラフトの追加挿入を余儀なくされた.
  • 中村 賢, 白鳥 一明, 橋本 和弘
    2008 年 37 巻 2 号 p. 124-127
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    症例は23歳,男性.1カ月前より発熱を認め他院で精査を受けたが不明熱の診断のもととくに治療せず経過していた.1週間前より呼吸苦を認め当院を受診,経胸壁・食道心エコー上大動脈弁は二尖弁であり,左冠尖側に25mmの vegetation が付着し,高度の弁逆流を認めた.僧帽弁前尖には一条の逆流が認められ,穿孔が疑われた.感染性心内膜炎(IE)の診断のもとただちに抗生剤治療を開始したが,6日目の TEE 検査で僧帽弁逆流(MR)の進行,肺うっ血の憎悪を認めたため翌日準緊急手術となった.大動脈弁は左冠尖と無冠尖が癒合した二尖弁であった.その弁尖に直径15×30mm大の vegetation を認めた.弁尖を切除し僧帽弁を観察すると前尖弁腹に直径3mmほどの穿孔を認めた.穿孔部をトリミングしたのち,直径1cmの Xenomedica patch で補填,大動脈弁はSJM23で弁置換術を施行した.いわゆる kissing vegetation により生じた僧帽弁穿孔に対して経大動脈弁アプローチで僧帽弁形成術を施行しえたので若干の文献的報告を加え報告する.
  • 山口 高広, 松田 成人
    2008 年 37 巻 2 号 p. 128-131
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.突然の前胸部痛を主訴に当院に救急搬送となり,同日の緊急カテーテル検査で左主幹部病変を伴う3枝冠動脈病変を認める急性心筋梗塞と診断され,責任病変と考えられた右冠動脈のインターベンション後,残存病変に対する冠動脈バイパス手術目的に当科紹介となった.術前精査で左鎖骨下動脈閉塞による盗血現象 (subclavian steal phenomenon),および両側外腸骨動脈に閉塞病変を認める閉塞性動脈硬化症 (ASO) を合併し,左主幹部分岐部の冠動脈瘤を疑う左主幹部狭窄病変を伴う重症3枝病変の虚血性心疾患 (IHD) と診断した.治療戦略として, LAD および LCX 領域の冠動脈血行再建と同時に,冠動脈瘤切除を予定した.術後心機能低下時の補助循環に備え,上行大動脈-右大腿動脈人工血管バイパス術を併施し,患者への手術侵襲を軽減するために左上肢および左下肢への血行再建は後日に施行する2期的手術を選択した.術中所見で冠動脈瘤は認めず,瘤切除は施行しなかったが,予定どおりの手術を施行し,術後補助循環を使用することなく,術後24日目に2期目の手術を施行し,術後経過良好で2期目術後20日目に退院された.本症例のように複雑な IHD と ASO の合併した症例は手術侵襲と術後補助循環挿入ルートを十分に考慮した治療戦略をたてる必要があると考えられた.
  • 流郷 昌裕, 今川 弘, 塩崎 隆博, 鹿田 文昭, 河内 寛治
    2008 年 37 巻 2 号 p. 132-135
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    症例は26歳,女性.妊娠40週目で妊娠経過はとくに問題なかったが,突然胸背部痛が出現し,当院に搬送された.高身長,クモ状指,胸椎側弯を認め, Marfan 症候群と診断された.また,心エコーで AR III 度,心嚢液貯留,大動脈基部の拡張および上行大動脈に flap を認めたため,急性大動脈解離を疑い,本人および家人の了承を得て造影 CT を施行したところ,大動脈弁輪拡張症 (AAE) と,基部から上行大動脈にかけての解離 (Stanford A),および遠位弓部から腹部にかけての解離 (Stanford B) を認めた.この症例に対し,同日,帝王切開術にひき続き, Bentall 型手術を施行した.術中ヘパリン使用による子宮出血が懸念されたがとくに問題にはならず,母子ともに良好な結果を得た.
  • 村上 達哉, 加藤 裕貴, 牧野 裕
    2008 年 37 巻 2 号 p. 136-139
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    僧帽弁形成術後に感染性心内膜炎を新規発症することは少なく,とくに人工弁輪感染はまれである.症例は59歳,男性.急性心筋梗塞,重症3枝病変,僧帽弁閉鎖不全症に対して冠動脈バイパス術6枝,人工弁輪による僧帽弁輪形成術を施行した.術後1カ月半後,下痢と腹痛を訴え再入院した.胃内視鏡検査後に悪寒戦慄を伴う40°Cの高熱と炎症反応の亢進を認めた.抗生剤治療で一時軽快したが再燃し,各種抗生剤の追加投与で炎症所見は沈静に向った.しかし,経食道心エコー検査で僧帽弁人工弁輪に疣贅を認め,人工弁輪に発症した感染性心内膜炎と診断した.手術は再胸骨正中切開,体外循環心停止下,右側左房切開に Dubost 切開を加え視野展開し,感染した人工弁輪を摘出した.僧帽弁後尖基部中央に小穿孔を認めた以外は弁尖の変化は軽微であり,僧帽弁輪を debridement し,自己心膜バンドによる再僧帽弁輪形成術を施行した.疣贅の培養は陰性で起炎菌は不明であった.術後経過は良好で,術後2年半経過した現在,感染の再発はなく僧帽弁逆流も trivial である.胃内視鏡のような通常予防的抗生剤投与を必要としない検査であっても,人工弁輪植込み後早期の検査は避けるべきであり,止むを得ない場合は,人工弁置換術後に準じ予防的抗生剤投与を考慮してもよいと考えられた.
  • 北林 克清, 金 啓和, 渋谷 卓, 佐藤 尚司
    2008 年 37 巻 2 号 p. 140-143
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    心筋梗塞後の機械的合併症のなかで,乳頭筋断裂は比較的希で予後不良である.今回,心筋梗塞後乳頭筋断裂に対し僧帽弁置換術を施行,術後,呼吸不全,心室頻拍に対し長期補助循環が有用であった症例を経験したので報告する.症例は56歳,男性.ショック状態で来院した.左冠動脈回旋枝(#11)完全閉塞に対し,緊急経皮冠動脈形成術を行った.術後も循環不全が遷延したため,大動脈内バルーンパンピング,経皮人工心肺装置を装着した.経食道心超音波検査で乳頭筋の断裂を認めたため,緊急で僧帽弁置換術を施行した.第3病日に経皮人工心肺装置,第5病日に大動脈内バルーンパンピングを離脱したが,同日より薬剤抵抗性の心室頻拍発作を認めたため,再度大動脈内バルーンパンピングを留置,翌日には再度経皮人工心肺装置を装着した.経皮人工心肺装置により体循環を維持しながら,アミオダロン,カルベジロールを投与することで心室頻拍をコントロールし,第14病日に経皮人工心肺装置,第19病日に大動脈内バルーンパンピングの離脱が可能となった.
  • 石川 和徳, 緑川 博文, 菅野 恵, 小野 隆志, 森島 重弘
    2008 年 37 巻 2 号 p. 144-146
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,男性.突然の腹痛後に大量吐血し,ショック状態に陥った.造影 CT 所見から大動脈腸管瘻 (AEF) と診断し緊急手術を施行した.経腹膜法で腎動脈下腹部大動脈と空腸間の瘻孔部に到達した.瘻孔部を含めた大動脈および空腸を切除し,大動脈は PTFE 人工血管を用いて解剖学的再建を行った.空腸は端々吻合で再建したのち人工血管を大網で被覆した.腸管の浮腫が強く閉腹困難であったため,エスマルヒ駆血帯を利用して一時的に閉腹し,術後4日後に二期的に閉腹術を施行した.術後感染兆候なく経過は良好であった.瘻孔部の病理所見から,動脈硬化性穿通性潰瘍 (PAU) による動脈壁の局所的突出部が腸管へ破綻して生じた PAEF と推定した. AEF の予後は著しく不良で救命率も低く,とくに一次性大動脈腸管瘻はその発生頻度も希であることから文献的考察を加え報告する.
  • 森田 英幹, 多胡 護, 森本 徹, 神野 禎次, 山根 正隆
    2008 年 37 巻 2 号 p. 147-150
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    全身性エリテマトーデス(SLE)のため長期にわたるステロイドの内服を行っていた患者が胸腹部大動脈解離を発症し,直達手術により良好な経過がえられたので報告する.症例は53歳,女性.約10年前よりSLEのためプレドニゾロン(PSL)を12.5mg/日投与されていた.2003年9月胸部下行大動脈から腹部大動脈におよぶ急性大動脈解離を発症し保存的に経過観察を行っていたが,同年11月再解離と動脈瘤の拡大を認めたため,2004年1月人工血管置換術を施行した.第5肋間で左開胸を行い,横隔膜を切離して胸部下行,腹部大動脈を露出した.遠位弓部大動脈,腹部大動脈,腹腔動脈を遮断し,Th11~L1の肋間動脈を温存して下行大動脈から腹腔動脈の直上まで人工血管置換術を行った.術後経過は良好で,術後17日目にステロイドコントロール目的で内科に転科した.
  • 山本 希誉仁, 平岩 卓根, 伊藤 久人, 岡田 行功
    2008 年 37 巻 2 号 p. 151-154
    発行日: 2008/03/15
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    症例は43歳,男性.僧帽弁閉鎖不全症に対し,後尖middle scallopの矩形切除とfolding plastyを行い,前尖には人工腱索を移植した.さらに,Cosgrove-Edwards ring(32mm)による弁輪形成術も施行した.術後の僧帽弁逆流はtrivialで,経過良好で退院となった.しかし,外来経過観察中に貧血の進行を認め,LDHも1,923IU/lまで上昇した.経食道心エコーを施行したところ,逆流jetが人工弁輪に衝突しており,逆流jetの流速は5.19m/sと速かった.βブロッカーの内服を開始したところ,貧血は一時的に改善し,LDHも1,145IU/lまで低下した.輸血の必要はなく,腎機能障害も出現しなかった.しかし,全身倦怠感が残り,若年でもあるので再手術を施行した.再手術所見では,前回移植した人工腱索部分のcoaptationが悪く,そこから逆流が生じていた.Jetが衝突する部分の人工弁輪は内膜形成に乏しかった.人工腱索を再移植し,Physio ring(30mm)で弁輪形成をやり直した.再手術後,貧血は改善しLDHも正常に戻った.逆流量が少なくても,jetの流速が速く人工物と接触する場合は高度の溶血性貧血が起こるので,経食道心エコーを施行し,jetの流速,方向を正しくとらえることが重要である.また,エコーで簡便に計測できる逆流jetの流速は治療方針を決定するさいの一つのパラメーターになるのではないかと思われた.
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