2009 年 38 巻 2 号 p. 130-134
Chronic expanding hematomaは出血の原因と考えられる手術や外傷から1カ月以上を経て慢性的に増大する血腫であるが,開心術後の心嚢内における発症は非常に稀である.今回我々が経験した症例は78歳,男性で2年前に狭心症に対し冠動脈バイパス術を受けていた.術後1年6カ月頃より全身倦怠感,息切れ等を自覚,心エコーで心嚢内腫瘤を指摘され,それによる左室拡張障害・心不全症状を認めたため心嚢内腫瘤切除術および冠動脈バイパス術を施行した.切除腫瘤は泥状の内容物を伴い,周囲は高度に硬化・癒着しておりchronic expanding hematomaと組織診断された.術後心拡張機能は改善し心不全兆候も消失し,またその後1年半以上の経過中に再発を認めていない.開心術後の遠隔期に増大傾向を示す腫瘤が認められた場合には本症も鑑別診断の一つに加える必要があり,定期的な経過観察が必要であると考えられた.