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前田 武俊, 田ノ上 禎久, 長嵜 悦子, 江藤 政尚, 徳永 滋彦, 中島 淳博, 塩川 祐一, 富田 幸裕, 富永 隆治
2009 年 38 巻 2 号 p.
91-95
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
開心術周術期に治療抵抗性の難治性心筋虚血(冠動脈スパズムを含む)を発症した6例に対し,Rho-kinase阻害剤である塩酸ファスジルを使用した.術後急性期に発症した3例は年齢49~81歳,男性2例,女性1例であった.術直後~手術3時間後にST上昇を伴う循環虚脱を来たした.緊急冠動脈造影を行ったところ,冠動脈あるいはバイパスグラフトのスパズムを認めた.硝酸イソソルビド(ISDN)の冠動脈内投与を行うも軽快が得られなかったため,塩酸ファスジルをスパズム発症血管に対し選択的に投与したところ,3例ともに解除に成功した.術中に発症した3例は年齢57~77歳,いずれも男性であった.大動脈遮断解除後,心膜切開直後,バイパスグラフト吻合中に心筋虚血を発症した.ISDN無効あるいはスパズム疑診例であったため塩酸ファスジルを投与したところ,血行動態の安定化が得られ3例とも術中に体外循環を離脱し得た.スパズムと確定診断された症例はもとより,他剤無効例,スパズム疑診例に対しても塩酸ファスジルは有効であった.Rho-kinaseを標的とした治療戦略は,冠動脈スパズムを含む周術期難治性心筋虚血に対する新たな治療手段となり得る.
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佐伯 宗弘, 中村 嘉伸, 丸本 明彬, 原田 真吾, 内田 尚孝, 西村 謙吾, 金岡 保, 西村 元延
2009 年 38 巻 2 号 p.
96-99
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
内胸動脈(ITA)を採取する症例では胸骨への血流低下に加え,採取の際に胸骨を持ち上げることにより胸骨のずれが生じやすいと考えられる.離断胸骨の固定性の向上目的に胸骨ピンを使用開始したのでその有用性につき検討した.2006年1月~2007年12月に当科でITAを使用した単独CABG待機手術症例37例を対象とした.胸骨ピンを使用しなかった18例をA群,使用した19例をB群とした.胸骨ピンは胸骨閉鎖時に胸骨体に1本,胸骨柄に1本留置し胸骨ワイヤーで閉鎖した.胸骨ピンを使用しなかった症例は金属ワイヤーのみで閉鎖した.ICU帰室後12,24時間のドレーン出血量,ドレーン抜去時期,Surgical Site Infection(SSI)の有無,および術後胸部CTでの胸骨柄,胸骨体の最大段差を計測した.帰室後12,24時間のドレーン出血量はB群が少ない傾向にあった.ドレーン抜去時期はB群が有意に短かった.またSSIはA群17%(3/18)に比べB群0%(0/19)と減少した.胸骨段差は胸骨柄,胸骨体ともにB群が有意に少なかった.ITA使用例では,胸骨ピンを使用することにより胸骨のずれを軽減させることが可能であった.また早期のドレーン抜去およびSSIの減少にも寄与した可能性が示唆された.
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——左房拡大がない症例でも1本の鉤で良好な視野を得るために——
飯田 浩司, 砂澤 徹, 石田 敬一, 土居 厚夫, 須藤 義夫, 浮田 英生
2009 年 38 巻 2 号 p.
100-102
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
1本の鉤で僧帽弁形成術に必要な視野を得る工夫を報告する.胸骨正中切開で心膜を切開し右側心膜を引き上げて固定する.心膜切開の上方を大動脈右側からSVC右側に沿って右上肺静脈まで延長する.IVCから右下肺静脈までの心膜を切開する.SVC,IVCをテーピングし患者左方に引いて固定する.右側に引いた心膜と左側に引いたSVC,IVCの間に露出した右側左房を切開し開胸器に固定可能な鉤(Valve Platform Atrial Rake)を1本使用すると良好な視野が得られる.連続した38例の僧帽弁閉鎖不全症において視野の確保に難渋した症例はなくMVPが可能で,手術死亡,出血再開胸,不整脈の遷延,横隔神経麻痺,縦隔炎,再手術は認めなかった.MVP単独を行った18例における手術時間は212±32分,人工心肺時間120±22分,大動脈遮断時間88±18分であった.左房拡大がない症例にも有効であり,高度な技術や高価な器具を要さず,普遍的に施行可能な僧帽弁手術の視野確保法であると考える.
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宮本 和幸, 河野 博之, 神尾 明君
2009 年 38 巻 2 号 p.
103-105
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
左室心筋緻密化障害は左室心筋の緻密化が障害された先天性の心筋症であり,心不全が進行する予後不良の疾患である.今回我々は,左室心筋緻密化障害を有する成人例に生じた右房粘液腫に対して腫瘍切除術を施行したので報告する.症例は69歳女性,労作時の息切れを主訴に入院となり,心エコーで左室緻密化障害を伴う左心機能障害(EF=16%)および右房腫瘍を認めた.保存的に心不全をコントロールした後,心停止下に右房腫瘍切除術を施行した.右房腫瘍の病理組織診断は粘液腫であった.緻密化障害を有する心筋における虚血障害が危惧されたが,工夫した心筋保護を行った結果,術後早期の経過は良好で,術後19日目に退院した.左室心筋緻密化障害の予後を考慮すると,今後も厳重な経過観察が必要である.
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斎藤 雄平, 添田 健, 瀬戸崎 修司, 原田 寿夫, 三村 麻郎
2009 年 38 巻 2 号 p.
106-109
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
収縮性心膜炎は通常,慢性的な経過をたどることが多いとされる.心嚢水貯留に対するドレナージから化膿性心膜炎となったのを契機に,急速に収縮性心膜炎を呈した症例に対して,感染活動期に心膜剥皮術を行い,1期的に治癒せしめることができたので報告する.症例は82歳,男性.心嚢水の精査目的で心嚢ドレーンが留置されたが,その7日後に膿性の排液を認めた.細菌培養でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が検出され,抗生剤が投与されたが,全身倦怠感,全身の浮腫,呼吸困難が出現するようになった.Swan-Ganzカテーテル検査にてdip and plateau型の右室圧波形を認めた.CTにて膿性心嚢水の貯留が疑われ,心窩部小切開にて再度心嚢ドレナージを施行したが,血行動態の改善はみられず,乏尿となってきたため,十分なドレナージが必要と判断し,胸骨正中切開によるアプローチにて開胸した.心臓周囲には膿の貯留を認め,心膜は著明に肥厚しており収縮性心膜炎の所見であった.人工心肺補助下に心膜を剥皮し,十分な洗浄後,1期的に閉鎖した.術直後より血行動態は著明に改善した.ドレーンを利用した持続洗浄と抗生剤の投与を行い,術後32日目に退院した.本例のように,感染性心膜炎では急速な経過で収縮性心膜炎へ移行することがあり,適切な外科的治療を念頭に置いた注意深い観察が必要と思われた.また,可及的な心膜切除と持続洗浄を行うことで1期的な治療が可能であった.
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大澤 暁, 小泉 淳一, 福廣 吉晃, 岡林 均, 川副 浩平
2009 年 38 巻 2 号 p.
110-113
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
心筋梗塞の稀な合併症である偽性仮性心室瘤を経験した.症例は53歳,女性.心筋梗塞(後側壁)発症後4カ月後に食欲不振と呼吸苦を主訴に近医に入院した.心エコーにて心嚢液貯留と左室後側壁に突出する瘤を認め,当センターに搬送となった.当センターでの冠動脈造影にて#6に75%,#7に75%,#13に90%,#4PDに75%の狭窄を認めた.また,頭部CT,MRIにて,右後頭葉に,瘤内の血栓が原因と思われる比較的早期の出血性梗塞を認めたため,約1カ月間,頭部CTで経過観察したのち,瘤切除および冠動脈バイパス術を行った.心嚢液は漿液性で,瘤と心嚢膜との癒着は認めなかった.病理所見にて,瘤壁に心筋繊維を認めたことより,偽性仮性心室瘤と判断した.術後経過は良好で,術後18病日に退院となった.
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本田 二郎, 与那覇 俊美, 黒木 慶一郎
2009 年 38 巻 2 号 p.
114-118
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
症例は39歳,女性.38歳時,リウマチ性連合弁膜症のため大動脈弁置換(SJM regent 21mm)および僧帽弁置換術(On-X 27/29mm)を施行され,術後の経過は順調で退院となった.その後外来通院を行っていたが,約5カ月後,夜間呼吸困難が出現し入院となった.内科的治療に反応せず心不全が急速に進行し,ショック状態となった.人工弁透視および経食道心エコーにて血栓による僧帽弁位On-X弁の機能不全と診断し緊急手術を施行した.人工弁輪を全周性に覆う巨大な血栓を認め,弁葉の開放制限を生じていた.血栓除去を行い心機能は回復したが,周術期に生じた脳梗塞のため意識障害と麻痺を残した.術後10カ月後にリハビリ目的で転院となったが,経過中血栓の再発は認めなかった.近年使用されている二葉弁では,パンヌスを伴わない血栓による重篤な開放制限の報告は稀である.今回われわれは同弁の生体内における適切な開放角度を,他の症例の人工弁透視をもとに検討したので加えて報告する.
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岩崎 美佳, 枡岡 歩, 許 俊鋭, 加藤木 利行
2009 年 38 巻 2 号 p.
119-122
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
筋緊張性ジストロフィー症(myotonic dystrophy : MyD)は,稀な遺伝性筋変成疾患であり,手術適応のある心疾患を合併することがある.その心疾患に対する外科的治療は周術期における呼吸筋麻痺による呼吸障害や刺激伝導障害に伴う不整脈,開心手術中の低体温に伴う筋硬直などの様々な問題により,その外科的治療の適応外と判断されることが多く,またその手術報告も非常に稀である.今回我々はMyDを合併した心房中隔欠損症(atrial septal defect : ASD)・僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitaion : MR)に対し,胸骨部分逆L字型切開によるMICS法(minimally invasive cardiac surgery)を用いることにより,術後の呼吸機能の低下を最低限に維持できた症例を経験したので報告する.
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田中 大造, 柳沼 厳弥, 阿部 和男, 浜崎 安純, 河原井 駿一
2009 年 38 巻 2 号 p.
123-125
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
症例は83歳,女性.不安定狭心症の診断で回旋枝に経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行し,その後の経過は良好であった.しかし,第8病日に急にショック状態となり,心エコーでは多量の心嚢液が見られた.心嚢ドレナージで血性心嚢液を認め,原因不明ながら心破裂が疑われ緊急開胸した.鈍縁枝領域に拇指頭大の急性心筋梗塞巣を認め,同部にblow out型の左室破裂を認めたため,水平マットレス縫合2針で止血した.術後経過は良好で,術後25日に軽快退院した.本症例ではPCIの際に,細い枝を1本犠牲にせざるを得ず,これが今回の心破裂の原因であると考えられた.PCI後に心タンポナーデを発症した際は,本症例のような機序で心破裂が起こりうることを念頭に置く必要があると考えられた.
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市川 洋一, 筑後 文雄
2009 年 38 巻 2 号 p.
126-129
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
症例は71歳,女性.全身倦怠感や食欲不振が出現し,精査・加療目的に当院に紹介となった.UCGにて心膜肥厚と右室拡張障害を認め,心臓カテーテル検査で右室拡張末期圧の上昇とdip-and-plateau波形を認めたため,収縮性心膜炎と診断し胸骨正中切開にて手術を施行した.心拍動下にUltrasonic Scalpelを用い心膜切除術を施行したが,循環動態の改善が得られず,残存した心外膜肥厚に対してUltrasonic Scalpelを用いてワッフル状切開を行った.その後より,dip-and-plateau波形は消失し,著明な心拍出量の増加を認め,循環動態の改善が得られた.収縮性心膜炎の心膜剥離・切除の際にはUltrasonic Scalpelが非常に有用であり,さらに残存した心外膜をワッフル状に切開することによりに安全かつ容易に循環動態の改善を得ることができ,有効な手術手技の一つと考えられた.
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土肥 正浩, 井上 知也, 渡邊 太治, 坂井 修, 高橋 章之, 村山 祐一郎, 中島 昌道
2009 年 38 巻 2 号 p.
130-134
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
Chronic expanding hematomaは出血の原因と考えられる手術や外傷から1カ月以上を経て慢性的に増大する血腫であるが,開心術後の心嚢内における発症は非常に稀である.今回我々が経験した症例は78歳,男性で2年前に狭心症に対し冠動脈バイパス術を受けていた.術後1年6カ月頃より全身倦怠感,息切れ等を自覚,心エコーで心嚢内腫瘤を指摘され,それによる左室拡張障害・心不全症状を認めたため心嚢内腫瘤切除術および冠動脈バイパス術を施行した.切除腫瘤は泥状の内容物を伴い,周囲は高度に硬化・癒着しておりchronic expanding hematomaと組織診断された.術後心拡張機能は改善し心不全兆候も消失し,またその後1年半以上の経過中に再発を認めていない.開心術後の遠隔期に増大傾向を示す腫瘤が認められた場合には本症も鑑別診断の一つに加える必要があり,定期的な経過観察が必要であると考えられた.
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岩崎 倫明, 大保 英文, 脇山 英丘
2009 年 38 巻 2 号 p.
135-137
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
非交通性の左上大静脈遺残を伴った急性A型大動脈解離に対する手術の報告は少ない.症例は71歳,女性.右頸部痛と気分不良を主訴に受診,急性A型大動脈解離と診断され,当科紹介となった.CTで非交通性の左上大静脈遺残を伴っていることが判明した.緊急で上行弓部大動脈部分置換術を施行した.右大腿動脈送血,右上大静脈,下大静脈にて人工心肺を確立した後に,左上大静脈にも心嚢内から直接L型脱血管を挿入し,計三本脱血とした.中心冷却後に上行大動脈を遮断,右房切開をおき,逆行性心筋保護で心停止を得た.直腸温28℃で循環停止とし,左右の上大静脈からの逆行性脳灌流を施行し,脳保護をおいた.術後経過は良好であった.非交通性の左上大静脈遺残を伴った急性A型大動脈解離の手術に際し,LSVCに直接カニューレを挿入し,逆行性心筋保護や逆行性脳灌流を確実に施行することで定型的な上行弓部部分人工血管置換を施行することが可能であった.
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大倉 一宏, 山下 克司, 寺田 仁, 鷲山 直己, 阿久澤 聡
2009 年 38 巻 2 号 p.
138-141
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
症例は59歳,男性.2007年10月初旬より動悸,咳嗽,胸痛を自覚し近医にて内服加療行うも症状は改善しなかった.同年10月下旬労作時の呼吸困難と下肢の浮腫が出現したため前医受診,急性心膜炎,心不全の診断にて入院となった.前医入院後利尿剤投与等行うも心不全症状改善せず,心エコーおよび心カテーテル検査にて収縮性心膜炎と診断され同年11月中旬手術目的に当院転院となった.画像上,壁側心膜と右室前面から横隔膜面を中心とした心外膜の著明な肥厚を認めた.手術は壁側心膜切除の後,心外膜に格子状の切開を加えるWaffle procedureを施行した.術後心カテーテル検査では,右室圧波形はdip and plateauを呈するものの肺動脈楔入圧は術前20 mmHgから13 mmHg,右房圧は術前20 mmHgから13 mmHg,心拍出量係数は術前2.2
l/min/m
2から2.9
l/min/m
2といずれも改善し,第22病日軽快退院した.
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川東 正英, 金 一, 野本 卓也, 新井 善雄, 中野 穣太, 松尾 武彦, 瀧本 真也, 曽我 欣冶, 羽生 道弥
2009 年 38 巻 2 号 p.
142-145
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
症例は34歳,女性.失神を契機に不整脈の精査目的に近医受診.経胸壁心エコー検査にて右房内に腫瘍を認めたため当院紹介となった.術前胸部CT検査にて右房内に約4×3cmの腫瘍を認め腫瘍摘出術を施行した.手術は人工心肺下に腫瘍摘出および心房中隔および左房壁欠損部の自己心膜による修復術を施行した.病理診断にて摘出された腫瘍は血管筋脂肪腫と診断された.血管筋脂肪腫は結節性硬化症に関連した腎臓に認められる良性腫瘍がよく知られているが,心臓原発の血管筋脂肪腫はこれまでにも数例の報告しかなく非常に稀な腫瘍であり報告する.なお,本症例では結節性硬化症との関連は認められなかった.
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池淵 正彦, 藤田 康文, 樽井 俊, 入江 博之
2009 年 38 巻 2 号 p.
146-150
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
馬蹄腎と骨盤内動静脈奇形(AVM)を伴った腹部大動脈瘤(AAA)の手術を経験したので報告する.症例は75歳女性.直径4.7cmのAAAの前面に馬蹄腎峡部が約7cmの幅にわたって存在していた.同部に流入するaberrant renal arteryがAAAより分岐していた.また,左尿管近傍から卵巣および子宮周辺にかけてAVMを認めたが,この一部は拡大した左総腸骨動脈および内,外腸骨動脈中枢部の前面に分布していた.手術は腹部正中切開で経腹膜的に行った.馬蹄腎は剥離せず,AAAを切開後に瘤前壁と馬蹄腎を一緒にテーピングし,これを受動することで視野を確保して腰動脈の処理を行った.Aberrant renal arteryには冷却した乳酸リンゲル液を主成分とした腎保護液を注入し,大動脈の中枢側吻合の次に再建した.腎保護液注入時に馬蹄腎は広範囲に蒼白となり,この血管の支配領域の広さを感じさせられた.AVMは温存したが,菲薄な壁を持つ血管の集簇でありながら,腸骨動脈との間は剥離可能であり,手術の妨げとはならなかった.術後の血清クレアチニン値は0.5から0.6 mg/dlで推移し,腎機能障害は認めなかった.腎保護液の使用とaberrant renal arteryの再建が有用であったと思われる.
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中村 裕昌, 中島 博之, 長澤 淳, 清水 篤
2009 年 38 巻 2 号 p.
151-155
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
症例1(母)は48歳女性.Marfan症候群および胸部大動脈拡張でフォローされていた.胸部痛を主訴に搬送され,造影CTで急性大動脈解離(Stanford A型)と診断した.大動脈弁閉鎖不全症および心嚢水の貯留も認め,緊急でBentall手術を施行した.症例2(娘)は妊娠39週の26歳女性で,Marfan症候群の診断基準は満たしていなかった.母親が大動脈解離発症で救急を受診した際に背部痛が出現した.胎児への影響を懸念して患者が造影剤の使用を拒否したため,緊急で帝王切開を施行した.その後,造影CTで急性大動脈解離(Stanford B型)と診断した.そして,降圧療法を開始した.両症例共に軽快に退院した.症例2はMarfan症候群の基準は満たしていないものの,遺伝的素因があるなど,Marfan症候群の疑いが濃厚な妊娠例であった.このような症例については帝王切開も視野に入れて,密な周産期管理を行う必要があると考えられる.
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宇野 吉雅, 森田 紀代造, 山城 理仁, 篠原 玄, 香川 洋, 橋本 和弘
2009 年 38 巻 2 号 p.
156-159
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
心内奇形を伴わない一側肺動脈欠損は孤立性片側肺動脈欠損と呼ばれ,稀な疾患とされている.今回自己組織のみで再建を行い,良好な結果を得た同疾患の早期乳児例を経験したので報告する.症例は生後1カ月,3.1kgの男児.出生時からの頻呼吸,心雑音ならびに精査目的にて行った画像所見にて先天性孤立性右肺動脈欠損+動脈管開存と診断された.循環器科にて内科的治療を開始するも,肺高血圧所見の増悪が認められたため手術適応となった.手術は胸部正中切開アプローチにて体外循環・心拍動下に右肺動脈再建と動脈管結紮を行った.右肺動脈は腕頭動脈中枢側より起始しており,これを離断し自己心膜にて作製したロールを用いて主肺動脈に吻合した.術後経過は良好で,心エコー検査上肺高血圧所見の残存なく3週間で退院した.以後も臨床上問題なく,術後3カ月で行った心カテーテル検査においても,圧・形態ともに良好な所見が確認された.なお術前に行ったMulti-detector CT検査が確定診断および術式選択に際し有用であった.
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中山 泰介, 黒部 裕嗣, 堀 隆樹, 米沢 数馬, 石戸谷 浩, 曽我部 仁史, 加藤 逸夫, 北川 哲也
2009 年 38 巻 2 号 p.
160-164
発行日: 2009/03/15
公開日: 2010/03/31
ジャーナル
フリー
尿毒症性心の低心機能を伴う腹膜透析患者の外科治療においては,その適応や管理に未だ議論がある.今回,心房内腫瘤摘出術前に透析法を腹膜透析から血液透析に変更することで心機能が改善し,手術を安全に行い得て,その後に生体腎移植を施行し,さらに心機能の改善をみた症例を経験したので報告する.症例は71歳の男性で,慢性腎不全に対し6年前より腹膜透析を行っていた.このたび,配偶者をドナーとした生体間腎移植を希望して来院した.術前の心超音波検査でLVEF 25%の低心機能と,同時に右房内に浮遊する腫瘤を指摘され,急処生体間腎移植を延期し,まず右房内腫瘤摘出術を行うこととした.低心機能の原因は尿毒症性,虚血性の両因子が考えられた.右房内腫瘤摘出術の前に,腹膜透析から血液透析に変更すると,2カ月後にLVEF 48%と心機能の改善を認めた.そこで,人工心肺補助・心拍動下で右房内腫瘤摘出術を施行した.病理組織学的に摘出腫瘤は壊死組織と線維化血栓からなり,治癒期心内膜炎と診断された.術後状態は安定して心不全症状を来すことなく回復し,その5カ月後に生体間腎移植を施行し,腎機能の改善とともに,さらにLVEF 56%と著明な改善を認めた.低心機能を伴う腹膜透析患者における外科治療では,手術に先立って透析方法を適切に変更することにより心機能の改善を図ることができ,より安全な外科治療が可能であり,本病態を有する場合の考慮すべき戦略になりえると思われる.
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