日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告
馬蹄腎と骨盤内動静脈奇形を伴った腹部大動脈瘤の1例
池淵 正彦藤田 康文樽井 俊入江 博之
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2009 年 38 巻 2 号 p. 146-150

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抄録

馬蹄腎と骨盤内動静脈奇形(AVM)を伴った腹部大動脈瘤(AAA)の手術を経験したので報告する.症例は75歳女性.直径4.7cmのAAAの前面に馬蹄腎峡部が約7cmの幅にわたって存在していた.同部に流入するaberrant renal arteryがAAAより分岐していた.また,左尿管近傍から卵巣および子宮周辺にかけてAVMを認めたが,この一部は拡大した左総腸骨動脈および内,外腸骨動脈中枢部の前面に分布していた.手術は腹部正中切開で経腹膜的に行った.馬蹄腎は剥離せず,AAAを切開後に瘤前壁と馬蹄腎を一緒にテーピングし,これを受動することで視野を確保して腰動脈の処理を行った.Aberrant renal arteryには冷却した乳酸リンゲル液を主成分とした腎保護液を注入し,大動脈の中枢側吻合の次に再建した.腎保護液注入時に馬蹄腎は広範囲に蒼白となり,この血管の支配領域の広さを感じさせられた.AVMは温存したが,菲薄な壁を持つ血管の集簇でありながら,腸骨動脈との間は剥離可能であり,手術の妨げとはならなかった.術後の血清クレアチニン値は0.5から0.6 mg/dlで推移し,腎機能障害は認めなかった.腎保護液の使用とaberrant renal arteryの再建が有用であったと思われる.

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