抄録
症例は25歳,男性.自家用車を運転中に電柱に激突し,当院へ搬送された.CTでは,心嚢内に液体貯留を認める以外,他の臓器損傷を示唆する所見は認めなかった.検査中,ショック状態となったため,心嚢ドレナージを行ったところ,約150 mlの血液が排出され血圧は上昇した.心破裂と診断して胸骨縦切開を行った.出血源を検索し損傷状況を把握するために,経皮的心肺補助装置を装着した.右肺底静脈と右下肺静脈との合流部に破裂部を確認できたが,出血が十分には制御できず,損傷が複雑であったため,部分体外循環では損傷の修復は不可能であった.そのうえ,修復過程では空気塞栓が危惧されたため,上大静脈へ脱血管を追加挿入し,静脈貯血槽付きの別回路を使用して完全体外循環下にこれを直接閉鎖した.これまで,心嚢内肺静脈単独損傷の報告はない.その発生機序にエアバックの関与が強く疑われた症例で,完全体外循環による修復にて救命できた.