日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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38 巻, 3 号
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原著
  • 稲垣 英一郎, 濱中 荘平, 南 一司, 正木 久男, 田淵 篤, 柚木 靖彦, 久保 裕司, 湯川 拓郎, 種本 和雄
    2009 年38 巻3 号 p. 169-174
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    心臓・大血管手術,特に人工心肺を用いた手術が酸化ストレス・抗酸化ストレスの観点からみて,生体にどのような影響を与え,それがどのくらい持続するものであるかを検討した.2007年6月から10月末までの,人工心肺を用いた手術(ECC群)18例と腎動脈下腹部大動脈瘤人工血管置換術(AAA群)8例を対象にした.測定は,酸化ストレス度(d-ROM)について行い,手術開始時,手術終了直後,術後1日目,術後1,2,3週間,術後1,2,3,4カ月に計測した.d-ROMでは,ECC群はAAA群よりも有意に高かった(p<0.0001).Peak値はECC群では術後3週間目で,AAA群では術後2週間目だった.両群で酸化ストレスは上昇するが,ECC群での上昇がAAA群に比べてより顕著であった.酸化ストレス度(d-ROM)を指標にした手術侵襲度は,人工心肺を用いた手術では,腹部大動脈瘤手術に比べて,高いとの結論となった.
  • 鈴木 晴郎, 石川 進, 門脇 晋, 中村 圭介, 阿部 馨子, 川崎 暁生, 禰屋 和雄, 上田 惠介
    2009 年38 巻3 号 p. 175-178
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    心臓手術後急性期における短時間作用型β1 遮断薬・塩酸ランジオロール(オノアクト®)の有効性と安全な投与方法を検討した.心臓大血管手術後の成人10症例を対象とした.年齢は平均66(53~81)歳で男女比は9対1であった.主疾患は弁膜症7例,虚血性心疾患,胸部大動脈瘤,大動脈解離が各1例であった.頻脈の内訳は上室性(心房細粗動,上室性頻拍)が6例,心室性(心室性頻拍)が4例であった.頻脈性不整脈に対して,上室性ではIa,Ic群抗不整脈薬を,心室性ではIb群抗不整脈薬を第1選択として投与し,無効例でオノアクトを投与した.オノアクトの投与は初期負荷投与は行わず,静脈内少量持続投与とした.投与量は,導入量が平均0.018 mg/kg/分で,効果発現後は平均0.01 mg/kg/分で維持した.臨床効果:10例中9例で有効であった.上室性では,心房細動の4例中3例が洞調律に復帰し,1例で心房細動が持続したが心拍数の安定が得られた.心房粗動の1例では効果が不十分であり他剤に変更した.上室性頻拍の1例では心拍数の安定を得た.心室性では4例全てで頻拍症(VT)が消失した.血行動態:オノアクト投与により脈拍は140±42/分から95±21/分へと有意に(p<0.05)低下した.収縮期血圧は,投与前の118±24 mmHgから106±21 mmHgへと軽度低下したが有意差はなかった.心係数(CI)は投与前の2.4±0.5 l/min/m2 より2.7±0.6 min/m2 へと有意に(p<0.05)上昇した.拍出係数(SI)は17±7 ml/回/m2 より27±4 ml/回/m2 へと有意に(p<0.05)増加した.副作用:血圧低下,徐脈,気管支喘息発作はなかった.血液生化学検査では異常を認めなかった.短時間作用型β遮断薬(オノアクト®)は心大血管手術後の頻脈性不整脈に対して有用であった.少量持続投与法は心血行動態には大きな影響が無く,開心術後でも安全に用い得る.
  • 杉浦 唯久, 小出 昌秋, 國井 佳文, 梅原 伸大, 渡邊 一正
    2009 年38 巻3 号 p. 179-183
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    今回われわれは2007年1月から9月までに行われた成人心大血管手術全60例のうち術後に超短時間作用型β遮断薬(Landiolol)を使用した24例について検討した.平均心拍数は投与前99.5±16.5/分から投与後89.5±10.7/分と有意に低下した(p=0.0008).平均収縮期血圧,平均心係数は投与前後で有意差を認めなかった(それぞれp=0.15,p=0.75).術後入院期間中に心房細動が発生したのは24例中4例(17%)であった.Landiolol使用開始前に行った心大血管手術の術後に心房細動が発生したのは50例中20例(40%)であった(p=0.045).Landiolol投与により血圧,心係数を低下させることなく心拍数を有意に減少させることができた.術後の心房細動出現の予防効果も認められた.Landiololは心大血管手術後急性期に安全に使用できるβ遮断薬として期待できる.
  • 宮田 裕章, 本村 昇, 月原 弘之, 入江 嘉仁, 高本 眞一, 日本心臓血管外科手術データベース機構
    2009 年38 巻3 号 p. 184-192
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    心臓外科医療の体制や臨床プロセスの実施状況について,日本心臓血管外科データベース成人部門の参加施設(2007年4月時点)を対象に調査を行い,129施設から回答を得た(回収率86.6%).CABG手術について,「手術に少なくとも1つの内胸動脈を用いる」では“第1選択として判断を統一している”という回答が95.3%と最も多かった.「手術退院時のアスピリン投与」,「手術退院時の脂質降下薬の投与」では“実施の判断は各担当医による”が89.9%,47.3%と最も多かった.「術前のβブロッカー投与」,「手術退院時のβブロッカー投与」では“推奨は特に行なっていない”が72.9%,60.5%と最も多かった.上記の項目は全て米国胸部外科学会が推奨するプロセスである.米国において高い実施率であるプロセスでも,日本では特にβブロッカー投与について慎重な施設が多いことが示された.今後は日本のデータに基づいて効果を分析し,推奨する体制やプロセスを検討することが必要であると考えられる.
症例報告
  • 田邉 佐和香, 大上 賢祐, 金光 真治, 宮川 弘之, 三宅 陽一郎, 岡部 学
    2009 年38 巻3 号 p. 193-196
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は44歳,女性.労作時呼吸困難にて受診し,大動脈弁狭窄症,僧帽弁狭窄症,肺高血圧症と診断された.手術では,大動脈弁は17 mmと狭小弁輪であり,僧帽弁も24 mmであったため,大動脈弁輪の大幅な拡大と僧帽弁輪の拡大が必要と考えられた.大動脈弁の無冠尖と左冠尖の交連部でsubaortic cartainを離断し両弁位に人工弁を縫着したのち,両弁輪の交錯部分を馬心膜パッチを用いて拡大するmodified coupling valve法にて二弁置換を行った.術後21日目に経過良好にて退院となった.
  • 泉 賢太, 久田 洋一, 迫 史朗
    2009 年38 巻3 号 p. 197-200
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は,72歳男性.胸痛を主訴として受診した.心電図にてIII,aVF 誘導でST上昇,急性心筋梗塞が疑われ,緊急冠動脈造影を施行した.RCA#3 total,LAD#6 75%,#7 99%の狭窄を認め,責任病変はRCA閉塞と判断し,RCA#3へ薬剤溶出性ステント(DES)を留置した.44日後,LADへOPCAB1枝(LITA-LAD)施行した.術後ドレーン排液は,ごく少量で,DES留置中であるため,術後1日目朝よりaspirin 100 mg 1×/日,ticlopidine 200 mg 2×/日を開始した.術後2日目朝,CVP 8→16→23 mmHgと急激な上昇を認め,血行動態が不安定となった.胸部CTにて心嚢と縦隔血腫の貯留が著明であり心タンポナーデの診断にて再開胸血腫除去術を施行した.吻合部やグラフトに出血を認めず,縦隔の脂肪組織からわずかに出血を認めた程度であった.その後順調に全身状態改善し,術後19日目退院した.DES留置中であるため,閉塞予防のため術後早期に抗血小板剤を再開したが,出血による心タンポナーデを発症した,DES留置後であるがゆえの重篤な術後合併症を経験したので報告する.
  • 福岡 正平, 武内 俊史
    2009 年38 巻3 号 p. 201-204
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は1年前に虚血性心筋症によるvalve tetheringを伴う虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対し,Mosaic生体弁にて僧帽弁置換術を受けた70歳男性.術後半年目に生体弁弁尖1枚が可動しなくなり,高度僧帽弁逆流が出現した.内科的治療を行うも呼吸苦などの心不全症状を繰り返すため,初回手術から約1年後に再僧帽弁置換術を施行した.手術は右開胸でアプローチし,機械弁に再置換した.生体弁は肉眼的には僧帽弁後尖側に相当させた無冠尖部弁尖が退縮していた.組織学的には,同部位の左室側にパンヌスの過形成を認め,弁尖がパンヌスに絡まれる形で完全に退縮していた.
  • 澤田 吉英, 野村 幸哉, 吉井 康欣
    2009 年38 巻3 号 p. 205-207
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    胸水濾過濃縮再静注法が有効であった術後大量乳糜胸症例を経験した.症例は73歳,男性.遠位弓部大動脈瘤に対し下行大動脈人工血管置換術を施行した.第4病日に乳糜胸水を認めたため低脂肪食,中心静脈栄養への変更を行ったが改善しなかった.さらに絶食としオクトレオチドの投与を併用したが軽快しなかった.結局,胸管結紮術を施行し軽快したが,保存的療法中に胸水濾過濃縮再静注法を行い,患者の全身状態を良好に保つことができた.
  • 田崎 大, 大島 永久, 白井 俊純, 牧田 哲
    2009 年38 巻3 号 p. 208-211
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.2002年に急性(下壁)心筋梗塞のために右冠動脈に対してPCI施行され,以後当院外来通院中であった.2007年3月,労作時呼吸苦が出現し,うっ血性心不全の診断で緊急入院した.冠動脈造影検査で重症3枝病変,左室造影では心基部下壁に存在する左室瘤と同瘤を経由し右室への交通を認める心室中隔穿孔を認めた.手術は,心室瘤壁のみを切開し内腔へアプローチした.瘤内から4-0ポリプロピレン糸を用いて穿孔部の単純縫合閉鎖,やや大きめの馬心嚢膜パッチを用いて瘤入口部と正常心筋との境界部を縫合することで瘤入口部閉鎖を行った.また冠動脈バイパス術3枝(左内胸動脈-左前下降枝,大伏在静脈-対角枝-後側壁枝)を併施した.術後第12病日に左室造影とグラフト造影を行い,遺残シャントを認めず瘤も消失しており,グラフトも全て開存していることを確認し,第13病日に軽快退院となった.
  • 徳永 宜之, 吉田 英生, 久持 邦和, 柚木 継二, 二神 大介, 海老島 宏典, 鈴木 登士彦, 加藤 秀之, 大庭 治
    2009 年38 巻3 号 p. 212-215
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    急性心筋炎に伴う左室内血栓症に対して,外科的摘除を施行した1例を報告する.症例は47歳,男性.発熱,呼吸困難が増悪し,ショック状態で搬送された.WBC 9500,CRP 9.8,心臓超音波検査上,左室はdiffuse severe hypokinesis(EF 21%),左室内に可動性のある血栓を多数認め,急性心筋炎に伴う左室内血栓症と診断し,血栓塞栓症の危険性が高いと判断し,血栓摘除術を施行した.右側左房切開し,経僧帽弁的に左室内血栓摘除術を施行し,内視鏡的に(胆道ファイバー使用)残存血栓を確認し,可及的に摘除した.IABP下に体外循環から離脱した.術後,ICU収容後に右上腕動脈塞栓症を生じ,血栓摘除術を施行した.また術後1日目に左上肢不全麻痺を認め,脳梗塞と診断し,エダラボン,へパリン投与を開始した.術後3日目にIABP抜去,4日目に人工呼吸器から離脱した.6日目の心臓超音波検査上,EF 52%と心機能は改善しており,10日目にICUを退室した.左上肢不全麻痺はリハビリにて改善し,術後23日目に退院した.内視鏡を用いることにより,左室切開を加えることなく多数の左室内血栓を摘除し得た.周術期の血栓塞栓症の発症に留意が必要であり,早期診断・治療が重要であることが示唆された.
  • 高松 正憲, 樗木 等, 内藤 光三, 坂口 昌之, 陣内 宏紀
    2009 年38 巻3 号 p. 216-218
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    69歳,男性.胸部レントゲン写真で心拡大を認め,当院を受診した.胸痛,胸部外傷や不明熱の既往はない.心エコーで重度の大動脈弁閉鎖不全を認めた.通常の胸部CTで無冠尖洞に限局性解離もしくは動脈瘤様の所見を認めたが,心拍動によるアーチファクトのためはっきりしなかった.冠動脈評価も含め心電図同期MDCTを施行,無冠尖洞に動脈壁欠損孔(6 mm)で交通した嚢状Valsalva洞動脈瘤(37 mm)を確認した.基部置換術を考慮していたが,心電図同期MDCT所見と術中の動脈壁の性状より判断して,大動脈弁置換術とともにパッチで欠損孔を閉鎖し,瘤内への血流を途絶させた.術後経過良好で,術後の心電図同期MDCTで瘤内への血流はなく,瘤内の血栓化を認めた.心電図同期MDCTは,基部の解剖や状態を把握するのに有用であった.
  • ——対麻痺予防を目的とした術式選択——
    関根 裕司, 中塚 大介, 野中 道仁, 岩倉 篤, 山中 一朗
    2009 年38 巻3 号 p. 219-222
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の男性.急性B型大動脈解離発症4年後に,胸腹部大動脈瘤に対して,人工血管を用いてパッチ形成術および腹腔動脈再建術を施行した.その8年後に吻合部仮性動脈瘤を認め再手術となった.左第8肋間開胸にて動脈瘤に到達し左大腿動静脈より送脱血管を挿入し下半身部分体外循環下に手術を行った,中枢側はTh8レベルで,末梢側は上腸間膜動脈直上で遮断し動脈瘤を切開した.中枢側吻合部が離解し仮性動脈瘤を形成していた.パッチをすべて除去し人工血管置換術を施行した.肋間動脈は2対人工血管間置法にて再建し,腹腔動脈も同様に再建した.術後経過良好で対麻痺も認めず,術後12日目に軽快退院となった.本例は初回手術時にパッチ形成術を選択し対麻痺を回避し得た症例であるが,遠隔期に吻合部瘤を合併した.このような合併症を考慮すると,可能な限り脊髄虚血予防を行った上で人工血管置換術を選択するのが妥当と考える.
  • 西村 善幸, 山本 晋, 和田 秀一, 藤田 広峰, 細田 泰之
    2009 年38 巻3 号 p. 223-225
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    Porcelain aortaを伴った弓部大動脈瘤に対し,心尖部送血による超低体温循環停止下に弓部置換術を施行し良好な結果を得た.症例は61歳,男性.3年前から近医にて弓部大動脈瘤を指摘され経過観察していた.2年前より透析を導入した.瘤径が拡大(最大径65 mm)したため手術目的で当院入院した.CT上,上行大動脈から下行大動脈にかけて全周性の著明な石灰化を認め,腕頭動脈から右腋窩動脈も石灰化していた.体外循環は上,下大静脈の2本脱血と心尖部送血で開始し,超低体温循環停止,逆行性脳灌流,選択的脳灌流を併用し弓部置換術を施行した.体外循環からの離脱は容易で,術後脳障害なく経過良好であった.心尖部送血法は腋窩動脈送血法に比べ正中創以外の創を切開する必要がないため体外循環の確立を迅速に行うことが可能であり,動脈送血に伴う動脈損傷や狭小径による不十分な送血流量の恐れもないため有用である.
  • 平山 亮, 中島 昌道, 小柳 俊哉, 鈴木 龍介, 渡辺 俊明
    2009 年38 巻3 号 p. 226-228
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は22歳,女性.今までに特に自覚症状は認めていなかった.平成17年4月の健診で高血圧症(上肢血圧180/112 mmHg)を指摘された.心エコー,胸部造影CTで上行大動脈拡大,大動脈縮窄,発達した肋間動脈と側副血行路を認めた.低身長(137 cm)と2年前からの無月経を認め,婦人科で染色体検査を施行しTurner症候群(45XO)と診断された.手術は胸骨正中切開でアプローチし上行大動脈-下行大動脈人工血管バイパス術を施行した.術後は高血圧の改善も見られ合併症もなく退院し社会復帰している.
  • 八丸 剛, 川口 悟, 渡辺 正純, 中原 秀樹
    2009 年38 巻3 号 p. 229-231
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は66歳女性,異型大動脈縮窄症に起因する高血圧性心不全と間歇性跛行が進行したため,腋窩動脈-両側腸骨動脈バイパス術を施行した.術後は減圧効果を得られ,心不全は改善しBNPも低下した.ABIも著明に改善し間歇性跛行は消失した.本疾患には大動脈-大動脈バイパス術の報告が多いが,本術式は,低侵襲で一定の効果を得ることができた.一方で,長期開存性・腹部臓器灌流の観点から,上肢血圧・ABI・腎血流に注意して,厳重なフォローアップが必須である.
  • 田中 秀幸, 木村 龍範
    2009 年38 巻3 号 p. 232-234
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は25歳,男性.自家用車を運転中に電柱に激突し,当院へ搬送された.CTでは,心嚢内に液体貯留を認める以外,他の臓器損傷を示唆する所見は認めなかった.検査中,ショック状態となったため,心嚢ドレナージを行ったところ,約150 mlの血液が排出され血圧は上昇した.心破裂と診断して胸骨縦切開を行った.出血源を検索し損傷状況を把握するために,経皮的心肺補助装置を装着した.右肺底静脈と右下肺静脈との合流部に破裂部を確認できたが,出血が十分には制御できず,損傷が複雑であったため,部分体外循環では損傷の修復は不可能であった.そのうえ,修復過程では空気塞栓が危惧されたため,上大静脈へ脱血管を追加挿入し,静脈貯血槽付きの別回路を使用して完全体外循環下にこれを直接閉鎖した.これまで,心嚢内肺静脈単独損傷の報告はない.その発生機序にエアバックの関与が強く疑われた症例で,完全体外循環による修復にて救命できた.
  • 生田 剛士, 大迫 茂登彦, 甲斐沼 孟, 入江 寛, 藤井 弘史, 清水 幸宏
    2009 年38 巻3 号 p. 235-238
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2010/03/31
    ジャーナル フリー
    人工心肺離脱後の大量気道出血に対して,気管支ブロッカーの有効な使用により,補助循環を用いることなく良好な経過を得た1例を経験した.症例は85歳,女性.僧帽弁狭窄兼閉鎖不全および三尖弁閉鎖不全に対して僧帽弁形成術および三尖弁形成術を行った.人工心肺から離脱し硫酸プロタミン投与後に気管内から大量の気道出血を認めたため,気管支内視鏡下にクーデック気管支ブロッカーチューブ(大研医器)を用いて,迅速に出血部位を同定し,選択的気管内タンポナーデ法を行った.呼吸,循環の悪化を認めることなく手術終了した.術後胸部造影CT検査で右肺動脈中葉支の血栓化した仮性瘤を認め,肺動脈カテーテルによる気道出血と推察された.再出血を認めることなく,経過良好で術後25日目に独歩退院となった.
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