日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告
多発性に発症し急速に拡大を呈した特発性非特異的炎症性腹部大動脈瘤の1例
鈴木 博之藤松 利浩大沢 肇
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2010 年 39 巻 4 号 p. 206-210

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抄録

症例は35歳男性.平成20年5月に心窩部痛の症状で当院救急外来を受診しCT検査にて腹部大動脈に局所的解離を疑う所見を認めたため,精査・加療目的で入院となった.急性大動脈解離として対処し安静,血圧コントロール治療を開始し,状態が安定しているため外来フォローとなった.経過観察目的で同年11月に施行したCT検査にて,解離を疑われていた腹部大動脈が嚢状に拡大傾向を呈し,また右総腸骨動脈にもそれまで認めなかった同様の嚢状瘤が生じているのを確認した.WBC高値,CRP陽性は依然として持続しており炎症性動脈瘤の診断で平成20年12月からプレドニン内服による治療を開始した.ステロイド内服治療を開始してからCRP値は著明に低下し,CT/MRI検査による画像検査では動脈瘤拡大の進行は減速しているのを確認した.しかし動脈瘤の形態が嚢状であり拡大傾向を呈していることから手術治療を行うこととした.内服プレドニンの投与量を減らすとCRP値が上昇する傾向にあり,30 mg/日の内服量を継続した状態で手術に臨んだ.瘤と周囲組織との癒着は著明であったが,血管径が正常な腹部大動脈周囲も周辺組織との癒着を認めた.腹部大動脈瘤壁を切開し瘤内血栓を除去したところ,血管内に繋がる瘤孔を認め,右総腸骨動脈瘤も同様の形態を呈していた.Y字型woven graftを使用して人工血管置換術を施行した.術後は経口摂取が開始になるまでは水溶性プレドニン30 mg/日の経静脈的投与を継続し,術後第5病日にプレドニン30 mg/日の内服投与に変更した.全身状態が安定しているため第10病日に退院となった.炎症性多発性動脈瘤に対する人工血管置換術は,術前からのステロイド投与により炎症を抑え周術期もその投与を継続し,適切に抗生剤投与を行えば術後合併症を生じることなく良好な結果を得ることができると考えられた.

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