日本心臓血管外科学会雑誌
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39 巻, 4 号
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原著
  • 森住 誠, 古川 浩, 深田 睦, 末松 義弘, 小西 敏雄
    2010 年 39 巻 4 号 p. 159-161
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    上行大動脈の硬化性病変は心臓手術例においてしばしば認められる.その際,大動脈遮断に伴う脳梗塞予防のため,我々は短時間循環停止を用いて大動脈遮断を行っている.また,高度な石灰化例では遮断による上行大動脈への裂傷を回避する目的で,独自に作製した大動脈内遮断器具(オクルーダー)も用いている.2005年4月から2007年12月までに,この方法を上行大動脈に高度石灰化および動脈硬化性病変を有する18症例(石灰化13例・粥腫5例)に応用した.循環停止時間は最長5分以内,大動脈遮断時の直腸温も30℃以上に保った.結果,入院死亡なく術後脳合併症も認めなかった.本方法により粥腫および石灰化の破綻を最小限に留め,これらの硬化片が残存しても動脈切開部位より血管外に排出しえたと考える.本手技は,病的上行大動脈例における脳合併症を防ぐ遮断方法として有用な選択肢の一つと考えられた.
  • 加賀谷 智明, 小田 克彦, 河津 聡, 本吉 直孝, 川本 俊輔, 赤坂 純逸, 新田 能郎, 齋木 佳克, 井口 篤志, 田林 晄一
    2010 年 39 巻 4 号 p. 162-171
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    冠動脈バイパス術は技術の進歩,動脈グラフトの使用などで成績は向上しているが,問題点の一つとして新生内膜肥厚による吻合部狭窄があげられる.本研究の目的は,シロスタゾールと生体吸収性材料であるポリL乳酸・カプロラクトン共重合体(copolymer of L-lactide and ε-caprolactone ; P(LA/CL))を混合したシロスタゾール徐放フィルムによるイヌ大腿動脈吻合モデルの吻合部被包が,吻合部新生内膜の増殖抑制効果を有するかについて組織化学および組織計測学的に検討することである.総数20頭のビーグル犬を用いて,大腿動脈を2カ所切断し端々吻合を行った動脈吻合モデルを作製した.フィルムに含有させるシロスタゾールの量は10,40,80 mgとし用量効果について検討した.また,フィルムを使用せず吻合のみ試行した群をコントロールとした.手術終了4週間後に肉眼的所見を観察後,吻合部の病理組織学的検討を行った.シロスタゾール徐放フィルム群で有意に内膜中膜比の減少が認められた.また,proliferating cell nuclear antigen(PCNA), α-smooth muscle actin(α-SMA)およびdesminに対する各抗体を用いた免疫染色による検討では,シロスタゾール徐放フィルム群でコントロール群と比較しPCNA index, α-SMA陽性細胞率の有意な低下がみられた.Desmin陽性細胞率は80 mg群で有意な低下を認めた.シロスタゾール徐放フィルムを吻合部外膜側から投与することで,新生内膜肥厚抑制効果が確認でき,血管吻合術の長期予後改善に有望な手法となる可能性が示唆された.
  • ——Japan SCORE による評価——
    緑川 博文, 菅野 恵, 高野 隆志, 渡邊 晃佑, 島津 勇三
    2010 年 39 巻 4 号 p. 172-176
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    胸部大動脈瘤(TAA)に対するGore TAG device(TAG)によるステントグラフト治療(TEVAR)の初期成績を検討したので報告する.2009年7月までにTEVARを施行した27例(男女比22:5,年齢53~88歳,平均70.5歳)を対象とした.病因は動脈硬化24例,先天性,放射線照射,感染が各1例,瘤形態は真性22例,解離3例,penetrating ulcer 2例,破裂有無は切迫4例,破裂3例であった.瘤の部位は弓部もしくは遠位弓部7例,近位下行12例,下行8例,最大瘤径は30~90 mm,平均61.3 mmであった.手術は全例全身麻酔下に,血管造影装置および透視可能な手術台の完備した手術室で行った.初期成績:手術時間は30~200分,平均89分であった.大腿動脈アプローチを20例,腸骨動脈アプローチを7例に行った.デバイス1個で処理しえた症例は10例,2個以上は17例であった.左鎖骨下動脈を閉鎖した症例は7例,再建を2例に施行した.全例留置に成功し,1例にのみtype 2 endoleakを認めた.合併症としては腸骨動脈損傷を2例,術後一過性腎不全による血液透析を2例に認めたが,脳脊髄合併症など他主要合併症は認めず,手術および病院死亡は認められなかった.Japan SCORE(JS)評価:JSによる術後30日以内予測死亡率および死亡率を含めた主要合併症予測発生率は,TEVAR群11.4±9.5%,35.8±16.4%,同時期に行った外科手術(OR)群7.6±6.5%,28.4±17.9%とTEVAR群で高い傾向にあり,実際発生した合併症はOR群で多かった.TAGによるTEVARは本邦では初期成績の段階であるが,JSによる外科手術と比較した評価においても優れた結果であり,その有効性が示唆された.
症例報告
  • ——MSSA 腸腰筋膿瘍を契機とする感染性腹部大動脈瘤+左総腸骨動脈瘤に対する手術経験から——
    上原 彰史, 佐藤 正宏, 佐藤 裕喜, 滝澤 恒基, 杉本 努, 山本 和男, 吉井 新平, 春谷 重孝
    2010 年 39 巻 4 号 p. 177-181
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.腰部から左側腹部,左鼠径部にかけての激痛および高熱を主訴に前医を受診した.CTで左腸腰筋膿瘍と腹部大動脈終末部周囲の低濃度領域を認めた.炎症所見高値で血液培養でMSSAが検出され,抗菌薬加療を行うが,経過中腹部大動脈終末部に仮性瘤を認めたため,当院に搬送となった.MSSA腸腰筋膿瘍を契機とする感染性腹部大動脈瘤+左総腸骨動脈瘤と診断し,右腋窩-両側大腿動脈バイパス後,腹部大動脈,両側総腸骨動脈の離断・結紮,および左腸腰筋膿瘍腔内大網充填術を行った.腸管および腸間膜浮腫が著明で閉腹不可能であったためvacuum assisted closure(VAC)療法とし,42日後6回目の手術で閉腹できた.経過中腹腔内感染は生じなかった.腸腰筋膿瘍に伴う感染性動脈瘤は非常に稀であり,また致死率の高い疾患である.VAC療法はabdominal compartment syndrome(ACS)回避だけでなく腹腔内感染回避にも有効である.
  • 中尾 達也
    2010 年 39 巻 4 号 p. 182-186
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.安静時の激しい胸腹部痛を主訴に当院救急に搬送された.心電図所見,心筋逸脱酵素の上昇より前側壁の心筋梗塞を疑った.また心エコー図により心タンポナーデと診断した.心タンポナーデの原因精査のため緊急MDCT(Multi Detector Row Helical CT)検査を施行したところ大動脈解離は認めず,心尖部から前壁にかけての造影不領域,左前下行枝#7の瀰漫性狭窄と第2対角枝閉塞を同定できた.その結果,急性前側壁梗塞に伴う心破裂と確定診断し,超緊急手術とした.手術室入室時にPEA(pulseless-electrical-activity)に陥ったため,直ちに胸部正中切開を施行して心タンポナーデを解除した.左室側壁に2カ所の破裂孔からの噴出性出血(blow out型左室自由壁破裂)を確認,人工心肺下にフェルトストリップを用いた直接縫合閉鎖にて止血し得た.術後は,間質性肺炎の増悪で呼吸管理に難渋したが術後43日目に軽快退院した.急性心筋梗塞後のblow out型左室自由壁破裂の救命例は稀であり,MDCTによる診断が有用であった.
  • 佐藤 愛子, 穴井 博文, 和田 朋之, 濱本 浩嗣, 嶋岡 徹, 首藤 敬史, 坂口 健, 後藤 孔郎, 吉松 博信, 宮本 伸二
    2010 年 39 巻 4 号 p. 187-190
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    僧帽弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症の術後に著しい低血圧,低血糖を来たし,精査の結果副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone,以下ACTH)単独欠損症が判明した症例を経験した.症例は59歳,男性.下腿浮腫の精査を行ったところ弁膜症を指摘され薬物治療を受けていた.急性心不全を来たしたため僧帽弁形成術,三尖弁弁輪縫縮術およびMAZE術を行った.人工心肺離脱したがその直後より低血圧を呈し,輸液負荷,カテコラミン投与を行うも収縮期血圧が40 mmHgより上昇しなかった.アナフィラキシーショックを考慮しバソプレッシンとヒドロコルチゾン投与行ったところ血圧改善を認めた.術後12日目,低血糖による意識障害を起こし,糖大量持続投与にもかかわらず低血糖発作を繰り返した.精査にてACTH単独欠損症と判明した.ヒドロコルチゾン20 mg内服開始したところ血圧,血糖改善し経過良好である.
  • 前田 孝一, 阪越 信雄, 松浦 良平, 島崎 靖久
    2010 年 39 巻 4 号 p. 191-194
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    左室心筋緻密化障害は胎生期に左室心筋の緻密化が障害された先天性の心筋症であり,心不全が進行する予後不良の疾患である.最近では成人例の報告も散見されるようになり,成人例左室心筋緻密化障害に開心術を施行した報告もされている.今回著者らは,成人例左室心筋緻密化障害に陳旧性心筋梗塞を合併した症例に対して冠動脈バイパス術を施行したので報告する.症例は54歳男性.労作時呼吸苦を主訴に入院となり,心エコーにて左室緻密化障害を伴う左心機能障害(LVEF 25%)を認めた.また,冠動脈造影では#1,#6の完全閉塞を含む3枝病変を認めた.心筋シンチ,心臓MRIでは前壁心尖部のviabilityはないものの,前壁基部から中部にかけてはviabilityが存在した.保存的に心不全をコントロールした後,冠動脈バイパス術を施行した.術後の経過は良好で,術後7日目に退院した.術後1カ月時のLVEFは52%に改善していた.左室緻密化障害は進行性に心機能の低下をきたす可能性があり,本症例においても今後は綿密に経過観察していく必要があると考えられた.
  • 後藤 新之介, 松井 雅史, 河合 憲一, 真鍋 秀明, 高木 寿人, 梅本 琢也
    2010 年 39 巻 4 号 p. 195-198
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    血栓閉塞型急性大動脈解離(intramural hematoma(IMH))は内科的治療での遠隔期成績は良好で特にStanford B型では良好であるとされている.今回我々は血栓閉塞型B型急性大動脈解離破裂症例に対し上行弓部置換術を施行した2例を経験した.症例1は77歳女性.胸背部痛で発症し胸部CTにてB型急性大動脈解離を認め,当院に救急搬送された.血栓閉塞型B型急性大動脈解離破裂の疑いにて緊急手術を施行した.胸骨正中切開でアプローチし,遠位弓部から下行大動脈移行部に左胸腔への破裂を認めた.解離は遠位弓部から胸部下行大動脈に及び偽腔は血栓閉塞していた.上行弓部大動脈人工血管置換術を施行したが術後167日目に呼吸不全にて死亡した.症例2は60歳男性.胸背部痛で発症し胸部CTにてB型急性大動脈解離を認め,当院に救急搬送された.遠位弓部・胸部下行大動脈に血栓閉塞型解離,左胸水・心嚢液の貯留を認め緊急手術を施行した.胸骨正中切開でアプローチし,上行弓部置換術を施行した.術後多発脳梗塞を認め加療したが術後13日目敗血症にて死亡した.いずれも救命し得なかったが,血栓閉塞型B型急性大動脈解離破裂に対する手術例は稀な症例と考えられる.また,症例を選べば胸骨正中切開でアプローチすることも可能であり,迅速性・簡便性から選択肢の一つと考えられる.
  • 岡本 雅彦, 南雲 正士, 後藤 哲哉, 吉武 明弘, 三木 隆久, 大住 幸司
    2010 年 39 巻 4 号 p. 199-202
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術後に発症したコレステロール塞栓症の1例を経験したので報告する.症例は68歳,男性.最大短径55 mmの腎動脈下腹部大動脈瘤にたいしステントグラフト内挿術を行った.術直後に著しい左下腹部痛が出現した.数時間後,腹痛は軽減したが術後3週目まで続いた.術後10日目にCTにて腎脾臓梗塞が認められた.術後17日目に血中クレアチニン値の上昇が出現した.白血球分画所見で好酸球が12%と高値を示した.術後33日目に腎生検を行い,cholesterol creftを伴う肉芽性炎症変化による細動脈の閉塞所見を認めた.以上より,コレステロール塞栓症と診断し,スタチン系薬剤投与とステロイド療法を開始し,改善を得た.ステントグラフト内挿術においてはコレステロール塞栓症の誘因が多数存在する.その病態を理解し,早期診断,治療にあたることが,本合併症の予後改善に寄与すると思われた.
  • 長田 裕明, 佐地 嘉章, 丸井 晃, 山崎 和裕, 仁科 健, 南方 謙二, 池田 義, 坂田 隆造
    2010 年 39 巻 4 号 p. 203-205
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は60歳の男性.2008年11月,前立腺癌の手術中に心電図モニター上ST低下を認め,精査を行ったところ,左冠動脈主幹部から前下行枝・回旋枝分岐部に至る高度狭窄を伴う冠動脈瘤と右冠動脈近位部の完全閉塞を認めたため,当科紹介受診となった.冠動脈瘤の形態から,川崎病後遺症による冠動脈瘤を伴う冠動脈狭窄と判断し,2009年3月,冠動脈バイパス術を施行,術後14日目に合併症なく独歩退院となった.川崎病後遺症としての冠動脈瘤の成人例の報告や冠動脈バイパスを施行した報告は少なく,60歳まで無症状で経過した極めて珍しいケースであると考えられた.
  • 鈴木 博之, 藤松 利浩, 大沢 肇
    2010 年 39 巻 4 号 p. 206-210
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は35歳男性.平成20年5月に心窩部痛の症状で当院救急外来を受診しCT検査にて腹部大動脈に局所的解離を疑う所見を認めたため,精査・加療目的で入院となった.急性大動脈解離として対処し安静,血圧コントロール治療を開始し,状態が安定しているため外来フォローとなった.経過観察目的で同年11月に施行したCT検査にて,解離を疑われていた腹部大動脈が嚢状に拡大傾向を呈し,また右総腸骨動脈にもそれまで認めなかった同様の嚢状瘤が生じているのを確認した.WBC高値,CRP陽性は依然として持続しており炎症性動脈瘤の診断で平成20年12月からプレドニン内服による治療を開始した.ステロイド内服治療を開始してからCRP値は著明に低下し,CT/MRI検査による画像検査では動脈瘤拡大の進行は減速しているのを確認した.しかし動脈瘤の形態が嚢状であり拡大傾向を呈していることから手術治療を行うこととした.内服プレドニンの投与量を減らすとCRP値が上昇する傾向にあり,30 mg/日の内服量を継続した状態で手術に臨んだ.瘤と周囲組織との癒着は著明であったが,血管径が正常な腹部大動脈周囲も周辺組織との癒着を認めた.腹部大動脈瘤壁を切開し瘤内血栓を除去したところ,血管内に繋がる瘤孔を認め,右総腸骨動脈瘤も同様の形態を呈していた.Y字型woven graftを使用して人工血管置換術を施行した.術後は経口摂取が開始になるまでは水溶性プレドニン30 mg/日の経静脈的投与を継続し,術後第5病日にプレドニン30 mg/日の内服投与に変更した.全身状態が安定しているため第10病日に退院となった.炎症性多発性動脈瘤に対する人工血管置換術は,術前からのステロイド投与により炎症を抑え周術期もその投与を継続し,適切に抗生剤投与を行えば術後合併症を生じることなく良好な結果を得ることができると考えられた.
  • 竹林 聡, 迫 秀則, 高山 哲志, 岡 敬二, 葉玉 哲生, 立川 洋一
    2010 年 39 巻 4 号 p. 211-215
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は61歳女性.2005年4月に脳梗塞発症,右片麻痺となる.同年6月に右冠動脈有意狭窄に対してステント留置術を施行した.2006年10月にCTで上行大動脈起始部から弓部3分枝,両側大腿動脈にわたる真偽腔ともに開存する広範囲大動脈解離と診断された.また術前の冠動脈造影検査で左前下行枝の閉塞も認めた.以上より冠動脈病変を伴った広範囲Stanford A型慢性大動脈解離の診断で2007年2月に手術を施行した.本症例は腕頭動脈解離と右鎖骨下動脈高度狭窄があり,また左総頸動脈および左鎖骨下動脈も末梢まで解離していた.さらに弓部大動脈より末梢は真偽腔ともに開存し,腹部主要分枝が両腔から分岐しており,大腿動脈まで解離が及んでいたため,送血は両腔に行う必要があった.そこで手術は右房脱血,経心尖部大動脈送血および左大腿動脈両腔送血により体外循環を行い,冷却中の灌流不全防止に努めた.血行再建としてはY型人工血管を用いて弓部3分枝を最初に再建し(arch-first technique),ついで I 型人工血管を用いて末梢側は両腔に吻合し,偽腔にも灌流するようにした.つづいて中枢側吻合を行い,最後に大伏在静脈グラフトによる冠動脈バイパス術(CABG)1枝を行った.術後合併症はなく,CTでグラフトおよび弓部大動脈以下は両腔ともに血流良好で,術後18日目に独歩自宅退院となった.広範囲A型慢性大動脈解離の症例に対して臓器灌流不全防止のために送血部位の選択,再建手順および吻合方法を工夫して弓部置換を行い,良好な結果を得た.
  • 金光 尚樹, 青田 正樹, 中根 武一郎, 武田 崇秀, 小西 裕
    2010 年 39 巻 4 号 p. 216-219
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    食道癌切除術,胃管再建を後胸骨経路で行う方法は吻合箇所が少なく,縫合不全や胃管における潰瘍・癌の発生への対処の容易さ,美容上の問題などから胸骨前経路や後縦隔経路で行う方法よりも本邦では一般的となっている.この後胸骨胃管再建を行った後の心臓手術を胸骨正中切開で行うには胃管損傷,縦隔炎のリスクがある.僧帽弁後尖弁輪の石灰化を伴う僧帽弁逆流,三尖弁逆流の症例に対して右傍胸骨アプローチで僧帽弁人工弁置換術,三尖弁輪形成術を行った.術野が深く,手術操作の自由度が小さかったが馬心膜をcollarとして後尖側の弁輪部を補強した人工弁置換の遂行が可能であった.複雑病変であったこと,経食道心エコーを使用できず逆流の評価が困難であることなどからの理由で僧帽弁形成術を選択しなかった.右傍胸骨アプローチを用いたため,胃管損傷のリスクはほぼ皆無であり経口摂取を速やかに再開することができた.肋骨を複数切除した胸壁欠損部の脆弱性が問題となるがcomposite meshを補填することで十分な強度が得られた.
  • ——本邦における報告116例の検討を含めて——
    高橋 英樹, 西岡 成知, 莇 隆
    2010 年 39 巻 4 号 p. 220-225
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は21歳の男性.2カ月前より左下肢の間歇性跛行(約400 m 程度)を認めた.Ankle brachial pressure index(ABI)(左)=0.66と低下していた.下肢血管3D-CT検査にて膝上部膝窩動脈の分節的な完全閉塞とその部位に内部が均一で境界明瞭な低濃度の吸収域を認めた.手術は動脈切除術,自家静脈移植術を施行した.術後のABI(左)は1.01へ改善し,間歇性跛行も消失した.病理組織学所見も膝窩動脈外膜嚢腫に合致し,嚢腫は外膜に存在していた.経過は良好であり,術後14カ月の現在も再発なく経過している.
  • 窪田 武浩, 太斎 公隆, 本橋 雅寿, 松居 喜郎
    2010 年 39 巻 4 号 p. 226-229
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    三尖弁腫瘍の手術例を経験したので,適応,術式について考察し報告する.症例は73歳男性で15年前に脳梗塞の既往と脳血流保持のためバイパス術を受けていた.2年前に,心エコーで腫瘍を発見され,良性腫瘍との判断で経過観察されていた.当科にセカンドオピニオンを求められ,手術適応と危険性を説明した後,本人も希望し手術適応とした.手術は人工心肺使用下,心停止にて腫瘍を摘除した.術中卵円孔の開存を認め,同時にこれを閉鎖した.以前発症した脳梗塞がこの腫瘍周辺にできた血栓もしくは腫瘍そのものによる奇異性塞栓症の可能性を否定できなかった.病理学的に確定診断を得,術後経過順調で19病日退院した.心臓腫瘍の中でも,それが良性腫瘍で右心系に存在する場合は経過観察とする意見が多く聞かれるが,本症例のように卵円孔を通じ血栓塞栓症のような重症合併症を発症する可能性があり速やかに手術適応とする必要がある例もあるものと思われた.
  • 岡本 雅彦, 南雲 正士, 後藤 哲哉, 吉武 明弘, 三木 隆久, 大住 幸司
    2010 年 39 巻 4 号 p. 230-233
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    IgG4関連疾患はさまざまな臓器に起こりうるが,多くは腺管臓器においてであり,心血管領域での報告は少ない.今回われわれはIgG4関連疾患による冠動脈周囲腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は69歳男性.胸部CT上,2年前から増大し続ける,冠動脈周囲の腫瘍性病変にたいし,確定診断目的で開胸生検術を行った.病理組織診断では線維性結合組織内に形質細胞とリンパ球の密な増生を認め,好酸球も認められた.全体的に線維化が目立ち,一部で肥厚した膠原線維をともなっていた.免疫染色では形質細胞の多くはIgG4陽性であり,生検後測定した血漿IgG4濃度は1,080 mg/dlと高値を示した.以上からIgG4関連疾患の冠動脈周囲腫瘍と診断した.心血管領域のIgG4関連疾患は非常に稀であり,本症例はIgG4関連疾患による冠動脈周囲炎が腫瘍性病変を呈したものと思われた.
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