抄録
症例は16歳男子高校生.平成22年2月にバイク自損事故にて大動脈弓部小弯側を損傷した.びまん性脳損傷,肺挫傷,肝損傷を認める多発外傷合併例であった.保存的治療を行うも貧血の進行と縦隔血腫の増加を認めたため,加療目的に当科紹介となった.多発外傷合併例であり全身ヘパリン化を要する人工心肺の使用は困難と判断しステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic aneurysm repair ; TEVAR)を施行する方針とした.大動脈造影を行ったところ,ステントグラフトの中枢側landing zoneは左鎖骨下動脈を閉塞させても左総頸動脈を温存するには極めて短かった.そのため右鎖骨下動脈-左総頸動脈バイパス術を併用することでステントグラフト中枢側のlanding zoneを確保した上でステントグラフトを留置し,良好な結果を得た.TEVARは多発外傷を合併した外傷性大動脈損傷(blunt aortic injury ; BAI)に対する初期治療として有効と思われた.しかしながらBAIにおける胸部大動脈の形態解剖学的特徴から,BAIに対するTEVARは問題も有しており,その適応は慎重に判断する必要があると思われた.