日本心臓血管外科学会雑誌
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40 巻, 4 号
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巻頭言
症例報告
  • 久冨 一輝, 橋詰 浩二, 有吉 毅子男, 谷口 真一郎, 松隈 誠司, 松丸 一朗, 小野原 大介, 住 瑞木, 江石 清行
    2011 年 40 巻 4 号 p. 159-163
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    症例は16歳男子高校生.平成22年2月にバイク自損事故にて大動脈弓部小弯側を損傷した.びまん性脳損傷,肺挫傷,肝損傷を認める多発外傷合併例であった.保存的治療を行うも貧血の進行と縦隔血腫の増加を認めたため,加療目的に当科紹介となった.多発外傷合併例であり全身ヘパリン化を要する人工心肺の使用は困難と判断しステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic aneurysm repair ; TEVAR)を施行する方針とした.大動脈造影を行ったところ,ステントグラフトの中枢側landing zoneは左鎖骨下動脈を閉塞させても左総頸動脈を温存するには極めて短かった.そのため右鎖骨下動脈-左総頸動脈バイパス術を併用することでステントグラフト中枢側のlanding zoneを確保した上でステントグラフトを留置し,良好な結果を得た.TEVARは多発外傷を合併した外傷性大動脈損傷(blunt aortic injury ; BAI)に対する初期治療として有効と思われた.しかしながらBAIにおける胸部大動脈の形態解剖学的特徴から,BAIに対するTEVARは問題も有しており,その適応は慎重に判断する必要があると思われた.
  • 島田 勝利, 田中 裕史, 松田 均, 佐々木 啓明, 伊庭 裕, 宮田 茂樹, 荻野 均
    2011 年 40 巻 4 号 p. 164-167
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    症例は84歳男性.遠位弓部大動脈瘤に対し,順行性選択的脳灌流を用いて,弓部大動脈全置換術を施行した.ICU入室直後より血圧低下と著明な低酸素血症がみられ,胸部単純X線写真およびCT検査で両側肺水腫像を認めた.心エコー検査では左心室の虚脱を認めた.急性肺障害の原因として輸血関連急性肺障害を疑い,人工呼吸管理下にステロイドパルス療法,シベレスタット投与を開始した.手術侵襲,超低体温併用体外循環,腎不全,慢性閉塞性肺障害,高齢などがあり,呼吸管理に加え循環管理,腎不全治療に難渋し,集中治療室滞在期間は長期化(30日間)したが,術後78日目に軽快退院した.輸血された血液検体から,患者HLA抗原に対するHLA抗体が検出され,輸血関連急性肺障害と診断した.心臓・大血管手術では大量輸血を要する例もあり,周術期の急性肺障害の原因として輸血関連急性肺障害を鑑別診断として考慮することも必要である.
  • 田中 恒有, 吉鷹 秀範, 入江 嘉仁, 杭ノ瀬 昌彦, 都津川 敏範, 津島 義正
    2011 年 40 巻 4 号 p. 168-171
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    胸部大動脈瘤(TAA)に対する弓部全置換術(TAR)において,末梢側吻合は深く視野に制限があるため,運針や止血に難渋することがある.4分枝人工血管を直接吻合する方法か,下行大動脈にelephant trunkを挿入して末梢側吻合を行い,4分枝人工血管と吻合するstepwise法が主流である.しかし,吻合箇所が増えるため出血のリスクは増す.今回われわれは,stepwise法と同等の視野で,人工血管どうしの吻合を必要としない,Branched Graft Inversion techniqueを考案した.症例は65歳の男性.嚢状型TAA(最大径42 mm)と診断され,手術目的に入院した.胸骨正中切開でアプローチし,上行大動脈動脈および右大腿動脈送血,上下大静脈脱血で体外循環を確立した.順行性心筋保護を行い,25℃で下肢循環を停止し,順行性選択的脳灌流を行った.末梢側吻合は,裏返した4分枝人工血管を下行大動脈に挿入し,マットレス縫合および連続縫合で断端形成した.その後,人工血管を内腔から引き出し,頸部分枝の再建および中枢側吻合を行った.Branched Graft Inversion techniqueは,比較的良好な視野で,かつ1回で末梢側吻合が行える方法である.TAAに対するTARにおいて,有効な補助手段になり得ると思われる.
  • 中村 裕昌, 山口 裕己, 中尾 達也, 大島 祐, 徳永 宜之, 光山 晋一, 渡邊 晃佑
    2011 年 40 巻 4 号 p. 172-176
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    開心術後に発生した片側性肺水腫に対してVV ECMOを施行し軽快した2症例について報告する.症例1は35歳女性.重度の僧帽弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症を認め,右開胸で僧帽弁形成術および三尖弁形成術を施行した.人工心肺離脱後に酸素化の維持が困難となったために,大腿静脈送血,内頸静脈脱血のVV ECMOを施行した.胸部Xpでは右肺片側性の肺水腫を認めた.術5日目にVV ECMOを離脱した.その後深部静脈血栓を認めIVCフィルターを装着したが,経過良好で独歩退院となった.症例2は大動脈弁置換術後の67歳男性.弁輪部膿瘍を認め,大動脈基部置換術を施行した.人工心肺離脱後,酸素化の維持が困難となり両側大腿静脈脱血,送血でVV ECMOを施行した.胸部Xpでは右肺片側性の肺水腫を認めた.術後5日目にVV ECMOを離脱し,術60日目に独歩退院となった.術直後の呼吸不全症例に対してVV ECMOは有効と考えられるが,静脈血栓などの問題もあり,引き続き検討していく必要がある.
  • 吉田 俊人, 内藤 祐嗣
    2011 年 40 巻 4 号 p. 177-180
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,女性.大動脈弁輪拡張症による大動脈弁逆流のため心不全症状が出現し,大動脈基部置換術を行う方針となった.術前冠動脈造影検査では左冠動脈入口部に50%の狭窄を認めていた.術中に左冠動脈より選択的に心筋保護液の灌流を試みたところ12Gのカニューレが挿入できなかったため,同入口部のパッチ形成を行うこととした.左冠動脈Carrelパッチから左冠動脈主幹部にかけて切開し,大伏在静脈パッチにて形成した.その後,大動脈基部置換術を行った.術後経過は良好で,術後造影CTでは明らかな問題を認めず,術後29病日に独歩退院した.
  • 徳永 千穂, 榎本 佳治, 金本 真也, 佐藤 藤夫, 松下 昌之助, 平松 祐司, 渡邉 寛, 軸屋 智昭, 榊原 謙
    2011 年 40 巻 4 号 p. 181-183
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    61歳男性.2002年急性大動脈解離に対してhemiarch replacement術を施行され,その経過観察のため当院に紹介された.経過中に溶血性貧血が出現し,精査を施行したところ上行大動脈吻合部のフェルトストリップによる狭窄が溶血の原因と推察された.サルポグレラートとβ遮断薬内服で溶血性貧血は一時改善していたが術後7年目に大動脈弁位の感染性心内膜炎を発症し大動脈基部置換術を施行した.術中所見で吻合部内腔へのフェルトの脱落,突出を確認し,これが溶血性貧血の原因になっていたものと診断した.吻合部補強のためのフェルトストリップの使用による稀な合併例と考え考察を加え報告する.
  • 渡谷 啓介, 島本 健, 坂口 元一, 田村 暢成, 小宮 達彦
    2011 年 40 巻 4 号 p. 184-187
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    心原発の悪性腫瘍は頻度が少なく,そのなかでも横紋筋肉腫は術後の予後が不良である.今回,心原発の横紋筋肉腫を腫瘍切除し,化学療法により寛解を得た後,11年後に心内再発を来たしたと考えられる1例を経験したので報告する.
  • 児嶋 一司, 中村 栄作, 新名 克彦, 遠藤 穣治, 中村 都英
    2011 年 40 巻 4 号 p. 188-192
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    CABG術後,内胸動脈グラフトが開存している症例の心臓再手術において,右側方開胸アプローチや低体温体外循環,心室細動の併用が有効であった4症例を報告する.平均年齢は76.8±8.3歳,性別は男性1:女性3人であった.初回のバイパス本数は2.7±1.2本で,全例内胸動脈グラフトを使用していた.再手術の適応は僧帽弁閉鎖不全症2例,大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症1例,急性大動脈解離1例であった.手術は3例において右側方開胸を用い,体外循環の送血は全例大腿動脈から行い,左上肺静脈から左室ベントを挿入した.全例内胸動脈の剥離,遮断は行わず,心筋保護は中等度低体温(32.0~33.3℃)にて大動脈遮断下に冠灌流を施行したものが2例,選択的冠灌流を行ったが心停止とならず,超低体温(19.4℃)補助循環+心室細動の状態にしたものが1例,選択的冠灌流+超低体温(18.0℃)循環停止によるものが1例であった.各症例における体外循環時間や循環停止時間と,術後CK-MB最大値の間には特に傾向は認めず,術後経過も良好で在院死亡は0であった.心筋保護液注入にて心停止とならなくても,低体温体外循環,心室細動を併用することにより内胸動脈グラフトの剥離,遮断なしで良好な心筋保護が得られた.右側方開胸はグラフト損傷の危険性が低くベント留置も容易で,上行大動脈の操作も可能であり,有効な手段であると考えられた.
  • 佐々木 章史, 中野 清治, 小寺 孝治郎, 浅野 竜太, 池田 昌弘, 片岡 豪, 道本 智, 立石 渉, 久保田 沙弥香
    2011 年 40 巻 4 号 p. 193-196
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    47歳男性.二弁置換術後6カ月と8カ月後に人工弁感染の疑いで再二弁置換術を施行した.その後,術後早期より僧帽弁位人工弁離解が出現し,初回手術より15カ月後と21カ月後に再手術を行った.手術所見はいずれも大動脈弁,僧帽弁接合部の広範囲な裂開であった.全経過を通じて血液培養からは菌の検出はなく,CRPの陰転化を認めなかった.このため非感染性炎症性疾患を考え,精査を行ったが診断は得られなかった.4度目の再手術後,術後15日でCRP再上昇し収縮期雑音の聴取がみられたため,ステロイドの投与を開始した.ステロイドの投与開始後,CRPは陰転化しその後人工弁逆流の増悪は認めていない.
  • 高橋 英樹, 莇 隆
    2011 年 40 巻 4 号 p. 197-201
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性.56歳時に水腎症を発症し,CTガイド下針生検にて特発性後腹膜線維症と診断された.2003年7月からステロイド剤の内服を開始するとともに,水腎症は軽快し,2004年7月にステロイド剤の内服を中止した.その後も経過観察されていたが,2009年4月頃より左下肢腫脹を認め,CT,MRI,Gaシンチ検査と血液検査(血清IgG4高値),臨床経過により再燃した特発性後腹膜線維症に起因する左総腸骨静脈の閉塞と診断された.ステロイド療法と抗凝固療法にて左下肢腫脹は軽快した.現在慎重にステロイド剤を漸減しているが,再燃は認めていない.
  • 針谷 明房, 高澤 賢次, 恵木 康壮, 村岡 新, 三澤 吉雄
    2011 年 40 巻 4 号 p. 202-205
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    右房内から心嚢内に突出した転移性心臓腫瘍を経験したので報告する.64歳,男性.2年前に右前腕軟部腫瘍切除術を行った.病理学的には悪性線維性組織球腫malignant fibrous histiocytomaと診断された.1年後,右大腿部,1年半後,右肺中葉に再発し,それぞれ切除術を行った.その後,右大腿部に局所再発し,術前の心電図異常より,経胸壁心臓超音波検査を行ったところ,右房内に可動性のある,48×30 mm大の腫瘍を認めた.また,術前の冠動脈造影検査で左前下行枝に75%の狭窄を認めた.右房腫瘍摘出,1枝冠動脈バイパス術(左内胸動脈-左前下行枝)を行った.右房腫瘍は右心耳から房室間溝で心嚢内へ突出し,露出していた.切除断端には凍結凝固治療を用いて,局所再発の予防に努めた.
  • 千葉 清, 阿部 裕之, 北中 陽介
    2011 年 40 巻 4 号 p. 206-209
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    今回我々は,悪性リンパ腫の心筋浸潤により右房内に可動性の腫瘤病変を形成した比較的稀な症例を経験したので報告する.症例は食欲不振,呼吸苦を主訴とする71歳男性で,上部消化管内視鏡検査にて十二指腸腫瘍を指摘された.生検の結果び慢性大細胞型悪性リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma)と診断され,化学療法を施行する前に全身検索した結果,右房内を占拠する腫瘍が認められたため,当科紹介となった.腫瘍は心房中隔から一部大動脈基部まで浸潤していたため腫瘍を可及的に切除することにとどめた.循環動態は改善され,病理検査の結果DLBCLと診断された.化学療法を施行し,心臓腫瘍の再発なく現在外来にて治療継続中である.心臓に病変を認める悪性リンパ腫は一般にその病変部位とさまざまな合併症により,予後不良とされており,その診断,治療方法につき若干の文献的考察を加えて報告した.
  • ——慢性期偽腔開存の危険性——
    坂本 真人, 久原 学
    2011 年 40 巻 4 号 p. 210-214
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/11/14
    ジャーナル フリー
    B型大動脈解離の急性期治療は内科的保存的治療が一般的ではあるが,合併症により慢性期に外科治療を要する症例が少なくない.外科的治療を必要とするB型慢性解離の稀な合併症として,播種性血管内凝固症候群(DIC)が報告されている.DICを合併した慢性解離の治療としては抗凝固療法や凝固因子の補充などの内科的治療と外科的治療があるが,いまだ議論のあるところである.われわれは解離発症後,2年半を経てDICを合併した偽腔開存型慢性B型大動脈解離症例を経験した.CT所見からDICの原因を胸部大動脈偽腔内での凝固線溶亢進と判断し,entry閉鎖による偽腔血栓化を目的に弓部大動脈置換を行った.DICは術後すぐに改善し,患者は日常生活に復帰した.偽腔開存慢性B型解離ではDICをきたす危険性があり,CTによる大動脈径の観察だけでなく,凝固線溶系の検査も必要である.
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