抄録
CABG術後,内胸動脈グラフトが開存している症例の心臓再手術において,右側方開胸アプローチや低体温体外循環,心室細動の併用が有効であった4症例を報告する.平均年齢は76.8±8.3歳,性別は男性1:女性3人であった.初回のバイパス本数は2.7±1.2本で,全例内胸動脈グラフトを使用していた.再手術の適応は僧帽弁閉鎖不全症2例,大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症1例,急性大動脈解離1例であった.手術は3例において右側方開胸を用い,体外循環の送血は全例大腿動脈から行い,左上肺静脈から左室ベントを挿入した.全例内胸動脈の剥離,遮断は行わず,心筋保護は中等度低体温(32.0~33.3℃)にて大動脈遮断下に冠灌流を施行したものが2例,選択的冠灌流を行ったが心停止とならず,超低体温(19.4℃)補助循環+心室細動の状態にしたものが1例,選択的冠灌流+超低体温(18.0℃)循環停止によるものが1例であった.各症例における体外循環時間や循環停止時間と,術後CK-MB最大値の間には特に傾向は認めず,術後経過も良好で在院死亡は0であった.心筋保護液注入にて心停止とならなくても,低体温体外循環,心室細動を併用することにより内胸動脈グラフトの剥離,遮断なしで良好な心筋保護が得られた.右側方開胸はグラフト損傷の危険性が低くベント留置も容易で,上行大動脈の操作も可能であり,有効な手段であると考えられた.