抄録
肥大型心筋症(HOCM)に合併する僧帽弁閉鎖不全症(MR)では僧帽弁形成後の僧帽弁前尖収縮期前方運動(SAM)の悪化を危惧し,中隔心筋切除術(myectomy)とともに僧帽弁置換術(MVR)を優先する意見もある.当院でmyectomyを施行した重度のMRを伴う左室流出路狭窄例について調べた.2008年8月から2009年7月までに当院でmyectomyを施行した7例のうち術前moderate以上のMRを認めた6例について術前・術後のMRやSAMの状態,手術所見等について検討した.6例中1例でMVRに至ったが4例は弁形成術(MVP)で逆流が制御できた.1例はmyectomyのみでMRが制御できた.Myectomy後にMRが残存したため2nd pumpでMVPを追加した症例が2例あった.術後エコーでは6例全例においてMRはmild以下に改善しSAMも消失,左室流出路圧較差も減少した.左室流出路狭窄症例に合併したMRに対してMVRは必ずしも必要としなかった.MVPはリングの不使用・後尖の減高を基本とし場合により前尖augmentationの併施がSAMの予防につながることが示唆された.