日本心臓血管外科学会雑誌
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42 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 星野 理, 伊藤 敏明, 前川 厚生, 澤木 完成, 藤井 玄洋, 林 泰成
    2013 年42 巻1 号 p. 1-5
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    肥大型心筋症(HOCM)に合併する僧帽弁閉鎖不全症(MR)では僧帽弁形成後の僧帽弁前尖収縮期前方運動(SAM)の悪化を危惧し,中隔心筋切除術(myectomy)とともに僧帽弁置換術(MVR)を優先する意見もある.当院でmyectomyを施行した重度のMRを伴う左室流出路狭窄例について調べた.2008年8月から2009年7月までに当院でmyectomyを施行した7例のうち術前moderate以上のMRを認めた6例について術前・術後のMRやSAMの状態,手術所見等について検討した.6例中1例でMVRに至ったが4例は弁形成術(MVP)で逆流が制御できた.1例はmyectomyのみでMRが制御できた.Myectomy後にMRが残存したため2nd pumpでMVPを追加した症例が2例あった.術後エコーでは6例全例においてMRはmild以下に改善しSAMも消失,左室流出路圧較差も減少した.左室流出路狭窄症例に合併したMRに対してMVRは必ずしも必要としなかった.MVPはリングの不使用・後尖の減高を基本とし場合により前尖augmentationの併施がSAMの予防につながることが示唆された.
  • ——左鎖骨下動脈をどうすべきか?——
    緑川 博文, 菅野 恵, 高野 隆志, 渡邉 晃佑, 植野 恭平
    2013 年42 巻1 号 p. 6-10
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    Z2 TEVARに対する初期および中期成績を検討した.2012年6月までの17例(男性16例,年齢46~82歳,平均69.4歳)を対象とした.病因は動脈硬化15例,放射線および先天性各1例,形態は全例真性瘤であった.左鎖骨下動脈(LSA)は,1)左椎骨動脈優位,2)右椎骨動脈が狭窄ないし閉塞,3)左右椎骨動脈交通がない,4)両側頸動脈病変,5)左内胸動脈を冠動脈バイパスに使用,6)広範囲胸部瘤に対するTEVAR,の場合にのみ腋窩-腋窩交叉バイパス(Ax-Ax B)を施行し,それ以外では閉鎖のみとした.デバイスはTAG 12例,TX2 5例であり,16例で瘤血栓化に成功した.Ax-Ax B 5例,LSAコイル塞栓を1例施行し,脳神経および左上肢虚血合併症なく,全例生存退院した.平均観察期間22.9カ月(5~46カ月)において,1例secondary type 1 endoleakにて外科手術移行した以外,瘤関連および手術関連合併症なく生存している.Z2に対するTEVARにおけるLSA再建有無の適応は妥当であり,その初期および中期成績は良好であった.
  • 藤井 玄洋, 伊藤 敏明, 前川 厚生, 澤木 完成, 星野 理, 林 泰成
    2013 年42 巻1 号 p. 11-15
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    近年,高齢者大動脈弁手術の増加に伴い,これまで以上に早期離床が望まれる.当施設では術後合併症の発症回避に努めることを目的に,2011年1月から待機的に予定された単独大動脈弁疾患に対して右傍胸骨小切開による大動脈弁置換術(MICS AVR)を導入した.MICS AVRの適応を満たした症例は32例(男性10例,女性22例),平均年齢は73.4±7.0歳であった.術前診断は大動脈弁狭窄症23例,大動脈弁閉鎖不全症6例,混合病変2例,バルサルバ動脈瘤を伴う大動脈弁閉鎖不全症1例であった.平均大動脈遮断時間99±22分,体外循環時間140±34分,手術時間250±49分,人工呼吸器時間7.5±4.7時間,ICU滞在日数1.2±0.5日,入院日数10.3±2.2日であった.1例にS-Tジャンクションの拡大,1例に弁輪拡大を施行した.MICS AVRから胸骨横切開または正中切開法へ切り替えた症例,出血再開胸症例,胸骨骨髄炎は認めなかった.成績は安定しており,適応を満たした単独大動脈弁手術の第一選択術式となっている.横皮膚切開による傍胸骨小切開法は美容的にも優れており,胸骨骨髄炎の発症も抑えることが期待され,また術後疼痛も少なく早期離床が必要とされる高齢者に適応が広がる術式であると考えている.MICS用体外循環材料や手術器具を用いた手術により良好な結果を得ているのでその術式,工夫について報告する.
  • ——CREDO-Kyoto からの検証——
    丸井 晃, 岡林 均, 小宮 達彦, 坂田 隆造, The CREDO-Kyoto Investigators
    2013 年42 巻1 号 p. 16-22
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    冠血行再建治療において本邦からのエビデンスレベルの高い報告は限られており,依然個々の医師・施設の経験に偏りがちな治療選択が行われることも多い.CREDO-Kyotoは本邦初の初回冠血行再建患者の多施設レジストリであり,これから得られるエビデンスが現時点では本邦で最も信頼性が高いと考えられる.2000~2002年にCREDO-Kyotoに登録された9,877名のうち多枝または左主幹部病変を有する6,327名(PCI/CABG=3,877/2,450)を対象とした.中央観察期間は3.5年で,PCIのうち85%はベアメタルステントが使用された.プロペンシティスコア解析では,総死亡はPCIで有意に多く(ハザード比および95%信頼区間:1.37[1.15~1.63],p<0.01),心筋梗塞もPCIで多かった(1.82[1.34~2.47],p<0.01).脳卒中はPCIで少なかった(0.75[0.59~0.96],p=0.02).さらにEuroSCOREにより患者をリスク層別化しon-pumpとoff-pump CABGの成績を比較したところ,低リスク群(スコア0~3%),中リスク群(3~6%)では差を認めなかったが,高リスク群(≧6%)ではon-pumpで脳卒中発症率が高かった(1.80[1.07~3.02],p=0.03).しかし死亡に関してはリスクにかかわらず差を認めなかった.多枝または左主幹部病変を有する患者ではCABGはPCIに比して長期予後に優れていることが示された.また特にハイリスク患者の脳梗塞回避においてoff-pump CABGの有用性が示された.
  • 青木 淳, 末澤 孝徳, 古谷 光久, 山本 修, 櫻井 淳
    2013 年42 巻1 号 p. 23-29
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    中枢側ネック長が10 mm以下の腹部大動脈瘤に対して,術中に自作開窓を作製したZenithステントグラフトシステム(自作開窓型Zenith)を用いて,ステントグラフト内挿術(EVAR)を11例に対して施行した(Fene群).これらの症例を,当院で通常のZenithによるEVARを施行した43例(IFU群)と比較検討した.Fene群は,全例重篤な並存疾患を有し,破裂によるショック例が2例あった.手術時間には有意差を認めず,留置・バルーン圧着後の造影でのType Ia endoleakの頻度(Fene群36%,IFU群26%,p=0.475),10分間のバルーン再圧着でも消失しないType Ia endoleakに対するPalmaz留置の頻度(Fene群27%,IFU群9%,p=0.140)にも有意差を認めず,最終造影にてType Ia endoleakを認めた症例はなかった.開窓した18本の腎動脈は,術中造影にてすべて開存していた.Fene群の破裂例2例を含め,両群とも手術死亡はなかった.術後半年後,Fene群の9例で造影CTが施行され,endoleakは1例でType IIを認めたのみで,Type Iaは認めなかった.これら9例では,開窓した腎動脈は15本すべて開存し,migrationを生じた症例はなかった.長期の経過観察が必要であるが,中枢側ネックが短い症例に対する自作開窓型ZenithによるEVARの初期成績は良好で,有用であると思われた.
症例報告
  • 樋口 卓也, 高橋 俊樹, 須原 均, 吉岡 大輔
    2013 年42 巻1 号 p. 30-33
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    症例は39歳女性で,学校および職場健診で異常心雑音を指摘されたことはなく,6年前に一過性の高熱の既往あり.3年前の会社健診で心雑音を指摘され心臓超音波検査(UCG)を施行,大動脈弁閉鎖不全症(AR)と診断された.経過中に徐々に心拡大傾向を認め精査となった.UCGではARIV,LVDd/Ds58/39,LVEF 60%,大動脈造影ではARIV,大動脈左冠尖(LCC)に2 cm程度のバルサルバ洞動脈瘤を認めたため,バルサルバ洞動脈瘤破裂に伴うARと診断し手術を施行した.手術所見上,大動脈弁は三尖で各弁尖には穿孔等の異常所見は認めず,大動脈右冠尖のLCCとの交連部寄りのバルサルバ洞根部に径6 mm大の瘤の入口部を認めたが瘤の破裂所見は認めなかった.これとは別に瘤に隣接して径5 mm大の左室への瘻孔を認め,同部位が術前画像所見でARと診断されたと考えられた.さらに瘤入口部と瘻孔入口部との間の稜線にはvegetationの治癒像を示唆する結合織塊を認めた.左室への瘻孔は直接閉鎖し,バルサルバ洞瘤入口部はパッチで閉鎖した.病理学的検査で結合織塊には好中球の異常集積を認め,大動脈左室間瘻孔の原因として感染性心内膜炎の関与が推察された.
  • 林 潤, 内田 徹郎, 吉村 幸浩, 金 哲樹, 前川 慶之, 宮崎 良太, 大塲 栄一, 貞弘 光章
    2013 年42 巻1 号 p. 34-37
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    きわめて稀な疾患である上腸間膜静脈脈瘤(superior mesenteric venous aneurysm,以下SMVA)に対する外科治療経験を報告する.症例は64歳,男性.胃癌術後の経過観察中,CTでSMVAを指摘され,増大傾向を認めるため外科的治療の方針とした.瘤は上腸間膜静脈本幹と脾静脈との合流部から約10 mm末梢側に位置する28 mm大の嚢状瘤で,瘤の頭側1/3は膵臓に覆われていた.手術は仰臥位,上腹部正中切開から右側方に切開を延長する逆L字切開でアプローチした.Kocherの授動術から膵頭部を露出,瘤を切除し,ウシ心嚢膜でパッチ形成した.術後,膵酵素・肝逸脱酵素の上昇は認めず,第9病日に退院した.SMVAは,文献上十数例の報告があるにすぎず,治療方針に関する明確な基準はない.経過観察で問題なしとする報告が多い一方で,破裂による死亡例も報告されている.嚢状の形状で増大傾向を認めた場合には,破裂の危険性が高いと判断し,外科治療を考慮する必要があると考えられた.
  • 石川 和徳, 河原井 駿一, 浜崎 安純, 阿部 和男, 柳沼 厳弥
    2013 年42 巻1 号 p. 38-41
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性.6年前にB型大動脈解離を発症,腎動脈下腹部大動脈で真腔が閉塞して下肢虚血を生じ,緊急的に右腋窩-両側大動脈バイパス術を受けた.以降,他院にてワーファリンによる抗凝固療法を継続されていた.3年前に右上肢血栓塞栓症に対して血栓除去術が施行された.その際の造影CTではすでに人工血管は閉塞しており,腹部大動脈の真腔が拡大して下肢動脈は真腔から灌流されていた.今回,右上肢血栓閉塞症を再発して来院した.血栓除去後の血管造影で,人工血管吻合部の腋窩動脈の蛇行と閉塞した人工血管中枢側にpouch形成を認め,同部位から浮遊する血栓像を確認した.吻合部の蛇行およびpouchが塞栓源と判断し,蛇行の解除およびpouchからの血栓遊離の予防を目的とし,血栓除去に引き続いて同部位にステントを留置した.塞栓源となる吻合部への処置として,ステント留置術は有用な選択肢になりうると考えられた.
  • 藤井 弘通, 青山 孝信, 髭 勝彰, 笹子 佳門
    2013 年42 巻1 号 p. 42-45
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    開心術後の非閉塞性腸管虚血(NOMI)は予後不良の稀な疾患である.その救命例の報告はあるが,その後の経過についてはほとんど知られていない.今回大動脈弁置換術(AVR)後のNOMIに対して小腸大量切除を行い救命し得た症例を経験したが,短腸症候群となった術後経過はけっして良好ではなかった.症例は79歳,男性.大動脈弁狭窄症に対しAVRを施行した.術後14日の腹部単純CTにて小腸壁に腸管壁内気腫像を認めたため,腸管壊死と診断し緊急開腹術を行った.広範囲に非連続性の黒色に変色した小腸を認め,小腸大量切除が行われた.病理学的所見では切除切片内の動脈は開存しており血栓は散在しているのみで動脈塞栓症ではなくNOMIであったと考えられた.その後の経過は一時的に社会復帰も可能となったが,尿路感染や急性胆嚢炎からの敗血症性ショックや中心静脈ポート感染による抜去を繰り返した.初回手術退院後死亡に至るまでの25カ月のうち入院治療を要した期間は14カ月であり,カンジダ敗血症,肝不全にてAVR後2年4カ月に死亡した.たとえNOMIに対して救命できたとしても,短腸症候群となった場合の経過は免疫,栄養面で問題が生じることを知っておくべきである.NOMIは特異的な症状や血液検査所見を有さないため,開心術後の血液検査や腹部所見の異常を見逃さず,NOMIの診断・治療を適切かつ早急に行うことが肝要と思われた.
  • 木原 一樹, 山本 正樹, 西森 秀明, 割石 精一郎, 福冨 敬, 近藤 庸夫, 栗山 元根, 笹栗 志朗, 渡橋 和政
    2013 年42 巻1 号 p. 46-49
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    症例は10歳女児.生後心雑音を指摘され心室中隔欠損症(以下VSD)と診断された.経過観察されていたが,生後より認めた漏斗胸も目立ち始め,同時手術の適応も含め当院小児科・当科に紹介となった.体重26 kg,体表面積0.99 m2,心臓カテーテル検査で肺動脈圧平均15 mmHg,Qp/Qs=1.1と肺高血圧なく合併奇形も認めなかった.心エコー所見と併わせ筋性型流出部VSDと診断した.漏斗胸は胸骨体尾部~剣状突起の陥凹で,CT indexは2.99であった.同時手術の方針とした.胸骨正中切開にて体外循環を確立し,心停止後右房アプローチでVSDをパッチ閉鎖した.心膜閉鎖後,左右胸腔にドレーンを挿入し,漏斗胸操作へ移行した.縦隔から胸腔に入り,直視下・指ガイドでテープを通した.止血を確認後,テープをガイドとして金属バーを挿入し,両端をスタビライザーで固定した.術後3時間で人工呼吸を離脱し,術翌日に一般病床へ転棟し経過順調であった.2年後,全身麻酔下にバーを抜去した.縦隔内,胸腔内ともに有意な癒着なく,抵抗なくバーは抜去でき,順調に経過した.
  • 捶井 達也, 池田 真浩
    2013 年42 巻1 号 p. 50-53
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性.2011年9月,突然の胸背部痛と下肢の痺れを訴え当院に救急搬送された.CT検査でStanford B型急性大動脈解離と診断した.腎動脈以下の血栓化偽腔の圧排によって左総腸骨動脈の高度の狭小化を認めた.下肢の虚血解除を目的に緊急大腿動脈交叉(F-F)バイパス術を施行し左下肢の症状は消失した.しかし入院4日目に突然,両下肢の安静時痛およびチアノーゼが出現した.CT検査で血栓化偽腔の増大のために腎動脈下大動脈真腔が高度に狭小化していた.緊急開腹人工血管置換術を施行し,下肢血流の再還流をえた.術後血行再建後症候群(myonephropathic metabolic syndrome : MNMS)を併発し,急性腎不全に対して持続的血液濾過透析(CHDF)を行った.経過中に心室細動も発症し,術後管理に難渋したがその後,自尿を認め透析から離脱した.Ankle brachial pressure index(ABI)も改善し,入院34日目に麻痺なく独歩で退院した.
  • 日尾野 誠, 田嶋 一喜, 高味 良行, 内田 健一郎, 藤井 恵, 岡田 典隆, 加藤 亙, 酒井 善正
    2013 年42 巻1 号 p. 54-58
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.2型糖尿病,高度肥満(身長170 cm,体重160 kg,BMI 55)の既往があり,右冠動脈(RCA)の急性血栓閉塞による急性下壁心筋梗塞で入院した.同時に三枝病変を認め,内科的管理を行った後に冠動脈バイパス手術(CABG)が予定された.心不全,肺炎のため気管内挿管され人工呼吸管理となったが,肥満低換気症候群のため人工呼吸器離脱が困難となり,気管切開施行された.全身状態の改善が得られた,1年2カ月の入院治療後に手術施行となった.体重は107.5 kg,BMI 37.2まで改善を得ていた.呼吸器合併症を防ぐため周術期に気管切開管理は継続が必要と考えられたが,気管切開孔による胸骨正中切開創の汚染を回避することと,左前下行枝(LAD),対角枝(D1),後側壁(PL),後下行(PD)領域へのグラフトとしては左内胸動脈(LITA),右胃大網動脈(RGEA)で十分に到達可能なことより,Thoracoabdominal Spiral Incisionを選択した.術後疼痛による呼吸障害を予防するために術前に硬膜外麻酔を留置した.上半身30度程度の右半側臥位にて第4肋間開胸し,LITAを剥離した.腹部正中へ皮膚切開延長して開腹し,RGEAを採取した.LITAをFree GEAとのI CompositeにしてオフポンプにてLAD,D1,14 PL,4 PLと吻合した.無輸血にて手術終了し術後経過良好で縦隔炎合併なく独歩退院となった.本切開法にて確実な気管切開孔からの汚染回避,全長にわたり剥離されたLITAおよびGEAの使用,比較的少ない心脱転で,LAD,左回旋枝(LCx),RCA領域にかけて正中開胸に劣らない良好な視野を得ることができた.
  • ——急性 A 型大動脈解離手術例の経験から——
    深田 穣治, 田宮 幸彦, 藤澤 康聡
    2013 年42 巻1 号 p. 59-62
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    脊髄保護における選択的脳灌流(SCP)の役割を示唆した急性A型大動脈解離の手術例を経験したので報告する.症例は,術前に運動知覚異常のない72歳,男性である.造影CTで解離は上行大動脈から腎動脈レベルに達しており,真腔は狭小化し,解離腔は造影されなかった.術中に確認できる範囲の解離腔は血栓で充満していた.中等度低体温,選択的二分枝脳灌流にて上行弓部全置換術を施行した.術後,感覚機能は保たれていたが,下肢でより重症な四肢の運動麻痺が認められた.神経学的診断および脊髄MRI所見から,術中の脊髄虚血により脊髄前角を中心とした灰白質が縦断的に頸胸椎レベルで障害されたものと診断された.術前から肋間動脈の血流が低下していた可能性のある本例では,SCPによる前脊髄動脈への血流が,脊髄保護においても重要な役割を果たしていた可能性があり,三分枝送血でのSCPが望ましいことが示唆された.
  • 金光 尚樹, 平尾 慎吾, 青田 正樹
    2013 年42 巻1 号 p. 63-66
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    症例は60歳男性.1カ月前から動悸,下肢浮腫を来たし近医を受診した.Valsalva洞動脈瘤,大動脈弁閉鎖不全と診断され手術目的に当科を紹介された.心エコーで右Valsalva洞動脈瘤を認め,瘤が心室中隔基部に進展し解離した形態を呈していた.中等度の大動脈弁逆流,僧帽弁逆流,軽度の三尖弁逆流を合併していた.動脈瘤開口部のパッチ閉鎖,大動脈弁置換,僧帽弁輪形成,三尖弁輪形成術を施行した.右Valsalva洞中央の弁輪直上から右冠動脈開口部の下に瘤形成し,右冠尖の逸脱と小穿孔を認めた.両交連部付近までヘマシールドパッチを補填して開口部を閉鎖し人工弁固定の糸針は右冠尖側はパッチに通した.術後経過は良好であった.若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 鈴木 智之, 福井 寿啓, 松山 重文, 田端 実, 高梨 秀一郎
    2013 年42 巻1 号 p. 67-70
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    症例は62歳女性,主訴は胸痛.発症時異常な高血圧を認め入院となるもその後経過観察となった.約1年後に胸部X線写真の異常を指摘されCTを撮影した.腕頭動脈解離および腕頭動脈瘤を認めた.解離は右鎖骨下動脈と右総頸動脈にも及んでいた.また上行大動脈の拡大も認めたため,腕頭動脈再建を含めた全弓部置換術を施行する方針となった.手術は超低体温循環停止,逆行性・順行性脳分離循環併用下に右総頸動脈と右鎖骨下動脈をY字型に作製した人工血管で再建し,上行弓部置換術を施行した.術後神経学的合併症を認めず,経過は良好であった.腕頭動脈瘤は末梢動脈瘤のなかでも稀な疾患で,瘤の形態や進展程度によって治療法はさまざまであり,文献的考察を加え報告する.
  • 大村 篤史, 安宅 啓二, 溝口 和博, 谷村 信宏
    2013 年42 巻1 号 p. 71-75
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    症例は高血圧を既往にもつ59歳男性.仕事中に突然の胸背部痛を自覚し,眼球上転し転倒した.発症より約20分後に当院に救急搬送となる.来院時,右共同偏視,左片麻痺を認めた.造影CT検査にて,上行大動脈から左右腸骨動脈にかけて解離を認め,右総頸動脈は真腔が偽腔により圧排されていた.脳灌流障害を伴った急性A型大動脈解離と診断し,発症より2時間半後に緊急手術を行った.Entryは上行大動脈に存在し,選択的脳灌流下に部分弓部置換術を行った.術後,神経症状は増悪を認めず経過とともに改善し,術後22病日に独歩退院となった.脳灌流障害を伴ったStanford A型急性大動脈解離を経験した.発症早期に大動脈修復術を行うことにより,神経症状を増悪することなく良好な結果を得ることができた.若干の文献的考察を加えて報告する.
その他
  • 和久井 真司, 吉開 範章, 秦 光賢, 瀬在 明, 高坂 彩子, 秋山 謙次, 塩野 元美
    2013 年42 巻1 号 p. 76-81
    発行日: 2013/01/15
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    2001年よりデータ収集が開始されている日本成人心臓血管外科データベース(JACVSD)は,今後All Japanのデータを世界へ向けて発信するための素晴らしい基盤となりうると考えられているが,数百項目の入力をすべての症例に対して入力するということは非常にストレスの多い作業であり,多忙な通常診療業務に更なる圧迫を加えかねないのが現状である.われわれの施設では,2004年からFilemaker Proを使用した独自のシステムを開発し活用しており,手術データ管理,医療書類作成支援,入退院手術スケジュール管理,認定医点数管理,当直当番管理などさまざまな機能を統合している.今回JACVSD入力システムを付加し,約5割のJACVSD入力項目が通常の書類作成作業による入力で自動的に入力され,良好な結果を得ている.なお,本システムは2007年には知的財産所有権(プログラム登録 題号 医療書類作成支援システム 登録番号 P第9126号-1)を所有した.
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