日本心臓血管外科学会雑誌
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原著
Stanford A 型急性大動脈解離における基部進展様式と至適修復法の検討
内田 徹郎金 哲樹前川 慶之大塲 栄一中村 健林 潤吉村 幸浩貞弘 光章
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2013 年 42 巻 4 号 p. 251-254

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抄録

【背景】Stanford A型急性大動脈解離における基部への解離進展は高頻度に認められる.A型急性解離における基部解離の進展範囲と冠動脈口との関連をもとに,基部修復法,手術成績,遠隔予後および治療方針の妥当性を検討した.【対象】1997年7月から2011年5月の期間に当科で施行した急性A型解離に対する手術80例を対象とした.【結果】手術死亡5例,病院死亡4例であった.Sino-tubular junctionをこえた解離の中枢側進展を72例(90%)に認めた.冠動脈周囲へ解離が及んだ症例は28例であった.左右両方の冠動脈へ波及した解離は11例であり,Valsalva洞の破裂と高度の大動脈弁閉鎖不全(AR)に対し,Bentall手術3例,David手術1例,大動脈弁置換術(AVR)1例を施行した.右冠動脈への解離進展は17例,このうち大動脈弁輪拡張症,ARに対する基部置換術(Freestyle弁)2例,partial remodeling 1例,断端形成+CABG 2例であった.左冠動脈のみに解離が及んだ症例はなかった.基部置換術以外の症例(74例)は,GRF糊による中枢側断端形成を行った.術後に高度のARを伴った基部再解離を5例に認めた.いずれも,初回手術時に左右冠動脈周囲の広範な解離を呈した症例であり,術後8,12,18,20,108カ月後に再手術を行った(基部置換術4例,AVR 1例).再手術では手術死亡,病院死亡ともに認めなかった.観察期間内に基部再解離以外には末梢側大動脈拡大などを認めた症例はなかった.【結論】A型急性解離に対する手術成績は比較的良好であった.解離が大動脈基部に広範囲に進展した症例では,中枢側断端形成後に遠隔期の基部再解離を来す可能性が高いため,生体糊の適正使用と厳重な経過観察が必要である.解離の中枢側進展範囲を正確に把握し,断端形成が困難な場合は基部置換術の同時施行を躊躇すべきではない.

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