抄録
症例は13歳の男児.生後2日目に左開胸下に大動脈縮窄部人工血管置換(6 mm人工血管生後50日目に大動脈弁下狭窄解除,心室中隔欠損閉鎖,5歳時に再度人工血管置換(10 mm人工血管)が行われた.上下肢圧較差が残存し,狭窄部に対し複数回,経皮的血管形成が試みられたが奏効せず,大動脈弁閉鎖不全・大動脈弁上狭窄も進行,再手術の方針となった.遠位弓部から胸腔内の下行大動脈まで広範囲の狭窄であること,心内操作が必要なことから,上行大動脈-腹部大動脈バイパスを選択した.14 mm人工血管で上行大動脈右側壁から右房前面,横隔膜を貫通し,腹腔動脈分岐前の大動脈へ至るバイパスを作製した.術後合併症は認めず,上下肢圧較差は消失した.遺残大動脈縮窄症に対する側開胸による再手術は,肺損傷,出血,神経損傷,循環停止の必要性などのリスクを伴う.正中切開からの非解剖学的バイパスは,これらのリスクを回避,同時に心内操作が可能となる有用なアプローチであるが,若年者に対して行うさいには長期予後の不明性から慎重な経過観察を行うべきである.