抄録
症例は76歳女性.12年前に狭心症に対して右内胸動脈(RITA)-左前下行枝(LAD)グラフトを含む冠状動脈バイパス術を他院で施行された.6年後にA型急性大動脈解離を発症したが,RITAが上行大動脈前面をとおり手術リスクが高いことから保存的加療を選択されていた.その後,上行弓部大動脈瘤の拡大により手術目的で当科紹介となった.再胸骨正中切開にあたり,小開胸した右第2肋間より胸骨裏面のRITAおよび大動脈瘤を剥離し十分なスペースを確保し,腋窩動脈送血・大腿静脈からの脱血で人工心肺を確立,減圧した状態で胸骨正中切開を行い,RITAおよび大動脈瘤に損傷なく胸骨正中切開を行うことができた.その後もRITAの剥離を最小限にとどめることで,開存RITAを温存し,上行・全弓部大動脈人工血管置換術を完遂することができた.胸骨に接するRITAグラフト,上行大動脈瘤を有する症例において,RITAおよび瘤損傷のリスクを回避する方法について報告する.