日本心臓血管外科学会雑誌
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45 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 佐伯 宗弘, 中村 嘉伸, 白谷 卓, 原田 真吾, 岸本 祐一郎, 大野原 岳史, 倉敷 朋弘, 岸本 諭, 掘江 弘夢, 西村 元延
    2016 年 45 巻 3 号 p. 101-106
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    [背景]B型急性大動脈解離に対し,早期にTEVARによるentry閉鎖を行うことで遠隔期予後が改善するという報告がある.[対象]2008年12月~2015年4月に当科でB型大動脈解離に対しTEVARを施行した46例を対象とした.平均年齢は66.4歳,男性38例であった.手術時期は,発症3カ月以内;15例(A群),発症3カ月~1年;10例(B群),発症1年以降;21例(C群)であった.[結果]全例手技は成功し,術中および術後早期の内膜損傷はなく,手術死亡,病院死亡ともになく全例軽快退院した.ULP消失または胸部偽腔の血栓化率は,A群14例(93%),B群5例(50%),C群9例(43%)と有意にA群が高かった(p<0.05).また,術後半年目で5 mm以上の大動脈径の縮小が得られたのは,A群13例(87%),B群7例(70%),C群4例(19%)とC群で有意に低かった(p<0.05).中期成績としては,C群の3例が大動脈径の拡大を来たし,うち1例は胸腹部置換を行った.[結論]本検討では,特に発症3カ月以内にTEVARを施行した症例でULP消失または胸部偽腔の血栓化率,大動脈径の縮小率がともに高く,逆に1年以上経過した症例では有意に低いことから,大動脈径が拡大傾向にあるB型大動脈解離症例にはTEVARによる早期の治療介入が有効であると考えられた.
症例報告
[先天性疾患]
  • 住 瑞木, 橋詰 浩二, 有吉 毅子男, 松隈 誠司, 中路 俊, 江石 清行
    2016 年 45 巻 3 号 p. 107-111
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性.洞不全症候群に対してペースメーカー植込.その後リード感染から三尖弁の感染性心内膜炎を生じて手術加療目的に紹介となった.術前のCTにて多脾症および肝下部下大静脈欠損と診断された.術前の心臓カテーテル検査にて2枝病変も指摘されたため,ペースメーカーシステム全抜去,冠動脈バイパス術,三尖弁形成術,新規ペースメーカー植込術(心外膜リード)を行った.術後に,肝下部下大静脈欠損および奇静脈結合の静脈還流異常を伴った上大静脈症候群による低心拍出量症候群となり,治療に難渋した.術後8日目に上大静脈狭窄に対しステント留置での拡張を行った.同治療にて著明に血行動態が改善し,術後34日目にリハビリ目的に転院となった.静脈還流異常を伴った上大静脈狭窄による低心拍出量症候群に対し,ステント留置での狭窄解除術が著効した1例を報告する.
[成人心臓]
  • 阪本 瞬介, 藤井 健一郎, 澤田 康裕, 庄村 遊, 田中 仁, 水元 亨
    2016 年 45 巻 3 号 p. 112-114
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    原発性心臓悪性腫瘍は比較的頻度が少なく,また予後も不良である.今回,急速かつ特異的に僧帽弁に進展し,重度の僧帽弁逆流と僧帽弁狭窄を来した原発性心臓肉腫の1例を経験したので報告する.
  • 鈴木 正人, 野村 文一, 大川 洋平, 安達 昭, 藤田 きしゅう, 大野 猛三
    2016 年 45 巻 3 号 p. 115-120
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性.発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションの治療前に行った冠動脈CTにて,左前下行枝本幹の中枢側に冠動脈瘤と瘤流出部に高度狭窄,および冠動脈肺動脈瘻を認めた.手術は心停止下で,瘻血管の結紮,肺動脈内腔からの瘻血管流入口の閉鎖,瘤切除,左内胸動脈を用いた左前下行枝へのバイパスを行う方針としたが,術中所見にて左前下行枝分岐部から瘤までの距離が非常に短く,結紮や単純閉鎖した場合に回旋枝の狭窄を来す恐れがあると判断した.左前下行枝分岐部を内胸動脈パッチにて閉鎖し回旋枝の狭窄を回避,さらに左内胸動脈-左前下行枝バイパスを追加した.冠動脈肺動脈瘻において瘻血管に形成した巨大な瘤を治療した症例は報告されているが,本症例のように冠動脈本幹に形成した巨大冠動脈瘤に冠動脈肺動脈瘻を合併した症例は稀である.
  • 野々山 敬介, 斉藤 隆之, 沼田 幸英, 山中 雄二
    2016 年 45 巻 3 号 p. 121-125
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性.食思不振,1カ月前から続く体重減少を主訴に当院を受診した.血液検査で炎症反応の上昇を認め,血液培養でStreptococcus oralisが検出された.心臓超音波検査で大動脈弁閉鎖不全症および大動脈弁に疣贅の付着を認め,感染性心内膜炎と診断した.抗生剤治療を行っていたが,本人が入院治療の継続を拒否したため,退院となった.退院10日後,就寝中に突然の胸痛を認め,再度当院を受診した.心電図でV1-4にST上昇を認め,急性心筋梗塞の診断で緊急冠動脈造影検査を施行した.左前下行枝#7の完全閉塞を認め,カテーテル吸引で疣贅様構造物を認めた.病理所見上も疣贅に矛盾しない所見であり,感染性心内膜炎の疣贅による急性心筋梗塞と診断し,入院後心不全を改善した後に,大動脈弁置換術,冠動脈バイパス術(Ao-SVG-#7),三尖弁輪縫縮術を施行した.感染性心内膜炎が疣贅の飛散により塞栓症を引き起こすことはよく知られているが,そのなかでも冠動脈塞栓は稀である.今回われわれは,感染性心内膜炎の経過中に疣贅の塞栓による急性心筋梗塞を発症した症例を1例経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 景山 聡一郎, 大橋 壮樹, 飯田 浩司, 只腰 雅夫, 鈴木 晴郎, 古井 雅人, 児島 明徳, 小谷 典子
    2016 年 45 巻 3 号 p. 126-130
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    劇症型心筋炎はPCPSなどの補助循環を導入し,急性期を乗り切る治療が行われるが,さらに重症な場合補助人工心臓が必要となる.今回,術前にPCPS,IABPを装着していたが臓器障害が進んだ劇症型心筋炎に対し,両心補助人工心臓(BiVAD)を装着し,合併症なく救命できた1例を経験したので報告する.症例は46歳男性.熱発で発症し前医に入院となり,発症3日目に突然の胸痛,循環不全からPCPS,IABPが装着された.心機能は著しく低下し,ほぼ無収縮状態となった.内科的治療を一週間続けていたが心機能の回復を認めず,また臓器障害の進行,肺うっ血の増悪,下肢の阻血が出現し,補助人工心臓装着目的に当院に転院となった.入院時血液生化学所見ではT-Bil 6.9 mg/dl,Cre 1.14 mg/dl,BNP 571 pg/dl,血小板3.3万/μlであった.経食道心エコー検査で両心室ともに高度に拡大,無収縮状態であったため,BiVAD装着の方針とした.上行送血,左室脱血で遠心ポンプに装着し左心補助人工心臓(LVAD)とし,肺動脈送血,右房脱血で遠心ポンプを装着し右心補助人工心臓(RVAD)とした.両心補助にて循環も安定しPCPSを離脱した.術後,徐々に心機能,肺うっ血,臓器障害が改善し,特に合併症を認めることなくBiVAD装着12日目に問題なく離脱した.離脱後10日目に抜管,心機能は正常化し,神経症状などの合併症も認めず,51日目に独歩退院となった.
  • 田中 陽介, 溝口 和博, 谷村 信宏, 脇山 英丘, 安宅 啓二
    2016 年 45 巻 3 号 p. 131-134
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    卵円孔開存を伴う三尖弁位感染性心内膜炎で,疣腫散布により多発梗塞,多発膿瘍を合併した症例を経験した.症例は28歳,女性.熱発および全身の関節痛を主訴に救急外来を受診した.CT,MRI検査にて脳梗塞,多発肺膿瘍,化膿性脊椎炎,腓腹筋膿瘍を認めた.心エコー検査では三尖弁に25 mm大の疣腫の付着と同弁の逆流を認め,感染性心内膜炎と診断され,同時に卵円孔開存の存在が判明した.血液培養ではメチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)が確認された.約5週間の抗生剤による保存的加療を行った後,疣腫除去術,Kay法による三尖弁形成術および卵円孔閉鎖術を施行した.術後は7週間の抗生剤投与を施行し,軽快退院となった.以後,感染性心内膜炎,多発梗塞の再燃を認めていない.三尖弁位感染性心内膜炎において,疣腫散布による左心系への合併症を併発した場合,卵円孔開存の存在を念頭に置くとともに,適切に手術時期を判断し対処することが肝要である.
[大血管]
  • 鈴木 大悟, 坂本 俊一郎, 芝田 匡史, 川瀬 康裕, 宮城 泰雄, 石井 庸介, 師田 哲郎, 新田 隆
    2016 年 45 巻 3 号 p. 135-138
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    冠状動脈バイパス術後の弓部大動脈瘤への外科治療は,開存グラフトの温存を考慮した上での術式の選択が必要とされる.今回,われわれは再冠状動脈バイパス術が必要とされる胸部大動脈瘤に対して,再胸骨正中切開によるtotal debranching TEVARと心拍動下冠状動脈バイパス術のハイブリッド治療を施行し,良好な治療経過を得たので報告する.症例は73歳男性.冠状動脈バイパス術および腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術の既往があり,胸部CTで56 mm径の嚢状の遠位弓部大動脈瘤が認められた.術前冠状動脈造影では左内胸動脈は開存していたが,左前下行枝は造影されず,対角枝が造影され,左前下行枝は右冠状動脈からの側副血行で描出された.心筋シンチでの前壁中隔の虚血から同領域の血行再建が必要と判断された.手術は再胸骨正中切開にてアプローチした.上行大動脈に側々吻合した3分枝人工血管を用いて頸部分枝を再建後,心拍動下冠状動脈バイパス術(大伏在静脈グラフト-左前下行枝)を施行した.最後に人工血管からzone 0部位へと順行性にステントグラフトを内挿した.術後経過は良好であった.CABG術後のfunctional IMAを有する弓部大動脈瘤に対して,胸骨正中切開によるハイブリッド治療は有用である.
  • —上行大動脈置換術+Less Invasive Quick open Stenting(LIQS)を行った1例—
    吉武 勇, 秦 光賢, 服部 努, 木村 玄
    2016 年 45 巻 3 号 p. 139-143
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    症例は76歳男性で,高血圧加療中に胸部大動脈瘤を指摘され,当科外来経過観察中であったが,最大径55 mmへと拡大してきたため,手術の方針となった.術前冠動脈CT検査にて冠動脈病変を認めなかったが,上行大動脈にpenetrating atherosclerotic ulcer(PAU)を認めた.上行弓部置換が望ましいと考えられたが,高齢であることからより低侵襲な術式となるようオープンステントグラフトを用いたLess Invasive Quick open Stenting(LIQS)をベースに術式を工夫し,上行大動脈置換術+遠位弓部大動脈置換術を手術時間242分(循環停止時間18分,大動脈遮断時間71分,人工心肺時間154分),人工呼吸器装着時間6時間15分,ICU滞在日数3日と通常の術式と比較し,より低侵襲かつ安全に手術を施行し得た.LIQSは高齢患者やハイリスク患者においてより低侵襲な手術を提供できる有効な術式であり,文献的考察を踏まえ報告する.
  • 小泉 滋樹, 南方 謙二, 阪口 仁寿, 渡辺 謙太郎, 中田 朋宏, 山崎 和裕, 池田 義, 坂田 隆造
    2016 年 45 巻 3 号 p. 144-147
    発行日: 2016/05/15
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    症例は76歳女性.12年前に狭心症に対して右内胸動脈(RITA)-左前下行枝(LAD)グラフトを含む冠状動脈バイパス術を他院で施行された.6年後にA型急性大動脈解離を発症したが,RITAが上行大動脈前面をとおり手術リスクが高いことから保存的加療を選択されていた.その後,上行弓部大動脈瘤の拡大により手術目的で当科紹介となった.再胸骨正中切開にあたり,小開胸した右第2肋間より胸骨裏面のRITAおよび大動脈瘤を剥離し十分なスペースを確保し,腋窩動脈送血・大腿静脈からの脱血で人工心肺を確立,減圧した状態で胸骨正中切開を行い,RITAおよび大動脈瘤に損傷なく胸骨正中切開を行うことができた.その後もRITAの剥離を最小限にとどめることで,開存RITAを温存し,上行・全弓部大動脈人工血管置換術を完遂することができた.胸骨に接するRITAグラフト,上行大動脈瘤を有する症例において,RITAおよび瘤損傷のリスクを回避する方法について報告する.
 
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