2021 年 50 巻 4 号 p. 270-273
大動脈弁原発の多発乳頭状弾性線維腫(papillary fibroelastoma : PFE)の摘出手術を経験したので報告する.症例は60代女性で生来健康であったが,動悸を主訴に近医を受診し紹介され当院循環器内科にて精査目的に入院.体表心エコーにて腫瘍を発見され,可動性腫瘤であることから,本人の手術希望もあり当科紹介となり摘出手術を行った.当初1個の腫瘍と考えていたが,長さ7 mmの左冠尖中央大動脈側に付着する有茎性腫瘤を摘出し,大動脈を閉鎖,心拍再開したところ,術中経食道エコーにて腫瘤が残存していることが判明した.再度心停止ののち観察すると,大動脈弁右冠尖の右冠尖-無冠尖commissure部心臓側に長さ6 mmの疣贅様可動性腫瘤1個と無冠尖の弁腹心臓側に約1.5 mmの棘様の腫瘤があり,いずれも大動脈弁からそぎ取るように摘出し大動脈弁を温存した.無冠尖の腫瘤が腫瘍である確証はなかった.病理学的にはこのいずれもがPFEであることが判明した.あたかもPFEの発育段階を追うような3つの腫瘍であった.再発することは非常に稀であることから,有茎性の場合は腫瘍をそぎ取り弁を温存することが可能とされる.しかしこの症例のように弁の表裏を丁寧に観察しなければ見逃していたことになる.疑わしければ切除することで再発による,新たな脳梗塞,心筋梗塞のリスクを回避し,再手術を回避できたと考えた.