2022 年 51 巻 5 号 p. 265-269
[はじめに]カテーテルによる不整脈治療において,心損傷,心タンポナーデは稀な合併症であるが,迅速かつ適切な処置をおこたると致命的な転帰をとる可能性のある非常に危険なものである.この合併症に対する緊急手術について詳細に検討された報告はほとんどない.[目的および対象]2012年1月から2021年12月において心房細動のカテーテルアブレーション手術中の心損傷に対して緊急修復術を施行した10例について,心損傷の特徴,治療戦略,手術術式を中心に検討した.[結果]全例手術により救命できたが,うち2例は体外循環下の手術となった.5例は左心系の損傷を認め,計12カ所の損傷を認めたが,いずれの損傷もカテーテル先端による鈍的損傷が主体であると思われた.4例に術後急性腎不全を合併し,長期臥床による廃用症候群を呈したため長期入院を強いられたが,これらはすべて80歳以上の高齢者であった.[結論]術前の心嚢ドレナージ血の分析や循環動態の評価による術前の全身状態の把握,また損傷部位を想定して治療戦略をあらかじめ立てておくことが重要であると思われた.左房損傷部は,解剖学的要因,カテーテル操作による要因により,左房天井部に起こりやすいことが示唆された.術後合併症の原因は,術前循環不全に起因するものであった可能性が高いと思われた.特に高齢者においては心原性ショックを含めた術前の循環不全の遷延によって急性腎不全などの重篤な合併症を併発し長期臥床による廃用症候群を引き起こす可能性があるため,より緊密な循環器内科との連携により早期の外科治療へ結びつける必要がある.