日本心臓血管外科学会雑誌
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51 巻, 5 号
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巻頭言
特別寄稿
  • 髙本 眞一
    2022 年51 巻5 号 p. 259-264
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    患者中心の医療は1969年にロンドンのBalint E. から初めて報告されたが,その後1980年代から広く世界に拡がってきた.本邦の厚生労働省は医療法第6条10にて病院の管理者が病院の医療で死亡があった場合医療事故と判断したら,医療事故調査・支援センターにて問題点を分析して理想的な医療状態を考慮してもらい,医療の質の向上を願っている.しかし,ある病院で心臓血管外科において70歳代の男性に僧帽弁手術が行われたが,術直後に心不全となり大学病院で治療されたが,2カ月後に亡くなり,剖検にて心筋の後壁,中壁が壊死となり,前壁だけが正常であった.このことに関して病院の管理者は医療の問題はなく,医療事故ではないと判断し,医療事故調査・支援センターでの分析を拒否した.しかし,患者の家族が病院から受けた資料を筆者に検討させると,僧帽弁手術の問題点は心筋に大量に空気が張り込み,それにより大部分の心筋が壊死となったことが判明した.このことにより病院の責任者が医療事故でないとの判断をしたことが医療の質をきわめて下げたことが判明した.したがって,病院の管理者が医療事故でないと判断しても,家族が反対するときは病院としては関係する学会に依頼して優秀な専門医師に医療事故の決定を行ってもらうことが,必要な医療事故調査・支援センターに調査を行うことにより,医療の質の向上につながり,患者中心の医療を行うことになってくることが判明する.

原著
  • 角野 聡
    2022 年51 巻5 号 p. 265-269
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    [はじめに]カテーテルによる不整脈治療において,心損傷,心タンポナーデは稀な合併症であるが,迅速かつ適切な処置をおこたると致命的な転帰をとる可能性のある非常に危険なものである.この合併症に対する緊急手術について詳細に検討された報告はほとんどない.[目的および対象]2012年1月から2021年12月において心房細動のカテーテルアブレーション手術中の心損傷に対して緊急修復術を施行した10例について,心損傷の特徴,治療戦略,手術術式を中心に検討した.[結果]全例手術により救命できたが,うち2例は体外循環下の手術となった.5例は左心系の損傷を認め,計12カ所の損傷を認めたが,いずれの損傷もカテーテル先端による鈍的損傷が主体であると思われた.4例に術後急性腎不全を合併し,長期臥床による廃用症候群を呈したため長期入院を強いられたが,これらはすべて80歳以上の高齢者であった.[結論]術前の心嚢ドレナージ血の分析や循環動態の評価による術前の全身状態の把握,また損傷部位を想定して治療戦略をあらかじめ立てておくことが重要であると思われた.左房損傷部は,解剖学的要因,カテーテル操作による要因により,左房天井部に起こりやすいことが示唆された.術後合併症の原因は,術前循環不全に起因するものであった可能性が高いと思われた.特に高齢者においては心原性ショックを含めた術前の循環不全の遷延によって急性腎不全などの重篤な合併症を併発し長期臥床による廃用症候群を引き起こす可能性があるため,より緊密な循環器内科との連携により早期の外科治療へ結びつける必要がある.

症例報告[先天性疾患]
症例報告[成人心臓]
  • 村上 忠弘, 南村 弘佳, 馬場 俊雄, 新田目 淳孝, 平居 秀和, 瀬尾 浩之, 賀耒 大輔
    2022 年51 巻5 号 p. 274-279
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    心臓原発悪性腫瘍は非常に稀であり,その予後はきわめて不良である.症例は45歳女性で呼吸困難,全身浮腫が急性発症した.心エコー検査で左心房内を占拠する腫瘍および僧帽弁と三尖弁の逆流を認めた.高度心不全を合併していたため準緊急下に腫瘍切除,僧帽弁形成術,三尖弁弁輪縫縮術を行った.病理検査で心臓内膜肉腫と診断され,pazopanib投与による化学療法を行った.手術後1年5カ月で再発腫瘍切除術,僧帽弁置換術,僧帽弁弁輪再建術を施行したが,広範囲直接浸潤をきたし初回手術後2年1カ月で死亡された.比較的長期生存を得た,左心房原発心臓内膜肉腫の手術例を経験したので報告する.

  • 北方 悠太, 恒吉 裕史, 片山 秀幸, 和田 拓己, 山田 健太
    2022 年51 巻5 号 p. 280-284
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は71歳女性.3年前に急性心筋梗塞を発症した際に,精査の結果抗リン脂質抗体症候群の診断となり,それ以降抗凝固薬の内服を継続していた.発熱,強い倦怠感を主訴に近医を受診し,血液培養陽性,MRI画像上の散在性の脳梗塞,腸腰筋膿瘍,化膿性椎間板炎を認め,心エコー上は明らかな疣贅は認めないものの,感染性心内膜炎の診断となった.抗生剤加療で血液培養は陰性化したが,弁破壊の進行による重度の僧帽弁閉鎖不全を認めたため手術加療目的で当院に紹介受診となった.大動脈弁閉鎖不全症を併せて認めたため僧帽弁置換術に大動脈弁置換も合併して行った.僧帽弁は弁下組織を含め両尖ともに強い肥厚を伴っており,後尖P2には穿孔を認めた.弁形成は不可能と判断し弁置換を行った.手術時間は4時間2分,大動脈遮断時間は92分.術中に提出した僧帽弁弁尖の培養は陰性であった.抗リン脂質抗体症候群があり,術中のactivated clotting time(ACT)管理は困難と考え,HMS PLUSによりヘパリン血中濃度を測定し管理した.人工心肺中の目標ヘパリン血中濃度を3 mg/kgと設定し管理を行い,術中に血栓傾向や回路圧の上昇は認めず問題なく終了した.術後6時間でヘパリン投与を再開し,ひき続き経口での抗凝固療法を行い問題なく経過し,術後12日で独歩退院となった.抗リン脂質抗体症候群の患者の開心術ではHMS PLUSを用いたヘパリン血中濃度管理が有用であると考えられる.

  • 伊藤 隆仁, 小林 可奈子, 川合 雄二郎, 大坪 諭
    2022 年51 巻5 号 p. 285-290
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    72歳女性.慢性心房細動に対し3回の心房カテーテルアブレーション手術歴あり.これまでの慢性心房細動により重度心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症となり息切れと下腿浮腫を呈し,また15×12×11 cmの巨大左房が食道を圧迫し嚥下障害を認めたため,外科治療の適応とした.36 mm人工弁輪を用いた僧帽弁輪縫縮術,Kay法による三尖弁輪縫縮術,左心耳切除とともに,Spiral resection法を用いて左房後壁,側壁,天井壁を幅4 cmにわたり広範囲切除し,左房を縮小した.術後,僧帽弁逆流と三尖弁逆流はtrivialに減少し,左房容量の減少により左室拡張能が改善し,左室拡張末期容量と一回心拍出量の増大を認めた.嚥下障害は消失し,心胸郭比は80%から56%まで低下,気管支角度は110度から90度となり,NYHAは術前のIII度からI度に改善した.弁形成術に加え巨大左房に対する広範囲左房切除を行い良好な結果を得たため報告する.

  • 上田 遼馬, 阪口 仁寿, 岩倉 篤, 森島 学, 瀧本 真也, 小曳 純平, 杉田 洋介
    2022 年51 巻5 号 p. 291-295
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    心房中隔欠損症(Atrial septal defect:ASD)の24.2%に片頭痛が合併すると知られている.経皮的カテーテル欠損孔閉鎖術(Percutaneous catheter closure; PCC)によるASD閉鎖は片頭痛を改善させるという報告が散見される.今回われわれは,外科的ASD閉鎖術を行い,内科的に制御困難な片頭痛が消失した症例を経験したので報告する.症例は46歳男性,頭痛を主訴に来院し,神経内科で片頭痛と診断されたが,内科的治療では片頭痛は改善しなかった.頭部MRIにて両側散在性の陳旧性脳梗塞を認め,経食道心臓超音波検査にて右左シャントを伴う静脈洞欠損型ASDを認めたため,奇異性塞栓症の可能性が疑われた.ASD閉鎖術を考慮したが,静脈洞欠損型ASDはPCC治療適応外のため外科的閉鎖術を選択した.PCC適応がないASDに対して行った自己心膜パッチによる外科的閉鎖術により内科的に制御困難な偏頭痛を消失させることができたため,ここにその有用性について報告する.

  • 有本 宗仁, 北中 陽介, 田中 正史
    2022 年51 巻5 号 p. 296-299
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は,69歳女性.慢性腎不全に対して10年前に維持透析加療を導入した.動悸症状,胸部圧迫感を認め,精査加療目的で当院を紹介受診した.精査を行い,左室流出路中隔側に長径11 mmの可動性のある腫瘤を認めた.発熱,感染兆候なく,半年間の経過観察の後,塞栓症のリスクになり得ることから,手術加療の方針となった.手術では,上行大動脈を斜切開し,大動脈弁を損傷せずに腫瘤を摘出した.術後経過は良好であった.病理検査では,広範な石灰化を示し,線維組織を伴っており,無形性腫瘍性病変(calcified amorphous tumor : CAT)と診断された.左室流出路に発生するCATは非定型であり,稀である.大動脈斜切開で大動脈弁に損傷なく治療し得たので報告する.

  • 股部 紘也, 南 智行, 藪 直人, 山崎 一也, 鈴木 伸一
    2022 年51 巻5 号 p. 300-303
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性.8年前より糖尿病性腎症で維持透析を導入されていた.透析中の血圧低下,頻脈,胸背部痛を主訴に当院受診.経胸壁心臓エコーで重症の僧帽弁狭窄症を認めたため手術の方針となった.僧帽弁を観察すると全周性の僧帽弁輪石灰化(Mitral annular calcification: MAC)を認め,さらに後尖は石灰化で一塊となって可動性を認めなかった.石灰化切除による左室破裂を避けるため弁尖のみを切除し,石灰化弁輪を温存してOn-X大動脈弁用19 mmによる弁置換を施行した.経過は良好で術後29日目に独歩退院となった.高度僧帽弁輪石灰化を有する症例は,左室破裂・冠状動脈損傷などの重大な合併症を引き起こす可能性がある.本症例では僧帽弁弁尖のみを切除し,石灰化弁輪を温存,かつ小口径の機械弁を用いて弁置換を施行し,良好な結果が得られたので報告する.

症例報告[大血管]
  • 若見 達人, 吉田 一史, 小山 忠明
    2022 年51 巻5 号 p. 304-307
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は43歳女性.大動脈解離の家族歴,遺伝性結合織疾患に特異的な身体所見を有していたが精査はされていなかった.妊娠30週に胸背部痛を自覚し当院に搬送されStanford A型急性大度脈解離の診断となった.血行動態は安定していたものの,偽腔開存型で大動脈基部拡大,大動脈弁閉鎖不全症を合併していた.現時点の出産で胎児の救命率は高く,帝王切開と人工血管置換術を一期的に行う方針とした.全身麻酔下に帝王切開分娩を行い,その後のヘパリン,体外循環での産科的出血を予防するため子宮全摘を施行した.ひき続き全弓部大動脈人工血管置換術,Bentall術を行った.術直後に子宮摘出部から出血で再開腹を行ったが,術後経過は良好で母子ともに合併症なく救命可能であった.母は遺伝子検査でLoeys-dietz症候群と診断された.

  • 林田 恭子, 増田 慎介, 森本 和樹
    2022 年51 巻5 号 p. 308-313
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    心臓大血管手術の周術期にST上昇を来す原因として,心筋梗塞,冠攣縮性狭心症,冠動脈の空気塞栓の他に,稀ではあるが,たこつぼ型心筋症がある.弓部大動脈全置換術中にST上昇を伴って発症した,たこつぼ型心筋症の1例を報告する.症例は71歳男性.検診で胸部レントゲンの異常を指摘された.コンピュータ断層撮影にて最大径68 mmの胸部大動脈瘤と診断され,手術適応となった.術前の心電図では異常所見を認めなかった.経胸壁心臓超音波検査で左室壁運動は正常であった.弁機能に異常を認めなかった.冠動脈造影では右冠動脈に50%の狭窄病変を認めたが,有意狭窄ではなかった.手術は中等度低体温下,順行性脳分離体外循環併用下で循環遮断し,弓部全置換を施行した.Terminal warm blood cardioplegiaを逆行性に注入後,ルートカニューレからエア抜きを行いながら,大動脈遮断を解除したところ,II,III,胸部誘導のST上昇と,経食道エコーで左室壁運動の低下を認めた.術野で右室の壁運動は良好であることを視認した.人工心肺をtotal perfusionで維持する間にSTは徐々に改善し,大動脈遮断解除から62分後に人工心肺を離脱した.閉胸時にSTの再上昇を認めたため,手術終了後ただちに心臓カテーテル室に搬入した.冠動脈造影では術前と著変はなかった.左室造影で心尖部に壁運動低下を認めたため,たこつぼ型心筋症と診断した.ただちにカテコラミンを中止した.術後1日目に血行動態の安定と心電図でSTレベルの改善を確認し抜管した.3日目に集中治療室を退室した.15日目に独歩退院した.本症例のように,術中にII,III誘導でSTが上昇したにもかかわらず右室壁運動が正常の場合,左心不全の鑑別疾患としてたこつぼ型心筋症を念頭にいれて対応することは重要である.

  • 瀧本 真也, 谷口 尚範, 岩倉 篤, 上原 京勲, 森島 学, 藤原 靖恵, 小曳 純平, 杉田 洋介, 白神 拓
    2022 年51 巻5 号 p. 314-320
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    50歳,女性.異型大動脈縮窄症(III型)に対し33年前に上行大動脈-腹部大動脈バイパス手術を施行.5年前にバイパスに使用した人工血管の非吻合部嚢状瘤に対してステントグラフト内挿術(TEVAR)施行.今回,前回とは別の部位の人工血管非吻合部拡張と腹部大動脈との吻合部仮性嚢状動脈瘤,両側腎動脈起始部狭窄とを指摘,吻合部仮性嚢状動脈瘤に関して手術適応と判断した.年齢より再開腹下根治手術を考慮したが,術前造影CTにおいて,下腸間膜動脈(IMA)から腹腔動脈(CeA)・上腸間膜動脈(SMA)へ豊富な側副血行路が発達しており,再開腹症例で癒着も想定され,その側副血行路損傷による出血はもとより,腹部全虚血となるリスク等を考慮し,開腹手術はハイリスクと考えられたため,Hybrid手術を計画.両側腋窩動脈-外腸骨動脈バイパス+中枢吻合部take down+腹部ステントグラフト内挿術(modified Double D Technique)+瘤内コイル充填術を行い,エンドリークを残さず手術を終了.POD 13に両側腎動脈にバルーン拡張を追加しPOD 37自宅退院.2.5年経過後も特に問題なく外来通院中である.

  • 長濱 真以子, 茂木 健司, 櫻井 学, 山元 隆史, 高原 善治
    2022 年51 巻5 号 p. 321-323
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は44歳男性.5 tのコンクリート塀が本人の左半身に落下し受傷した.前医CTで上縦隔内血腫を認め,外傷性大動脈損傷の疑いで紹介された.造影CTで腕頭動脈起始部に異常陰影を伴い縦隔内血腫を認め,大動脈損傷を疑うが大動脈壁は平滑で確定診断には至らなかった.3DCTで腕頭動脈-左総頸動脈間の弓部大動脈に仮性瘤形成を認め,外傷性大動脈損傷と確定診断した.ただちに部分弓部大動脈人工血管置換術を施行した.弓部大動脈内膜に約20 mmの裂孔を認めた.外傷性大動脈損傷の好発部位とは異なる比較的稀な腕頭動脈分岐部での損傷で,手術により救命し得た症例を報告する.

各分野の進捗状況(2021年)
U-40特別企画 心臓血管外科医の未来とダイバーシティ
第52回日本心臓血管外科学会学術総会 優秀演題
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