日本心臓血管外科学会雑誌
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第52回日本心臓血管外科学会学術総会 卒後教育セミナー
心臓外科医が知っておくべき臨床的心筋保護法の基礎理論と最新知見
森田 紀代造
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2022 年 51 巻 6 号 p. liv-lxviii

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抄録

現在までに臨床導入された心筋保護法には多くの組成・方式があるがいずれも有効性や安全性に遜色なく,その選択は理論的特徴や基礎臨床研究よりもむしろ施設や術者の好みに委ねられてきた.このため心筋保護はすでに確立した術中手段としてその基礎理論の重要性や臨床的な検証が軽視される傾向にある.しかし現代の心臓外科においては手術適応拡大による重症例や拡大手術症例の増加,MICSの導入や修練外科医の教育などを背景に,予期しない長時間心停止あるいは心筋保護灌流不均衡など想定外の事態において,心筋保護法が生死をわける事態をまねくことも稀でない.また最近ではさまざまな心筋保護に関する前向きランダム化比較試験randomized controlled trial(RCT)が報告されるようになり不十分ながら客観的検証に基づくエビデンスがようやく構築されつつある.このため心臓血管外科医にとって学術的意義のみならず医療安全の観点からも心筋保護理論の習熟と最新情報の周知はきわめて重要であることが再認識されるにいたった.現在開心術のための臨床的心筋保護法とは,心筋保護液組成crystalloid/blood cardioplegia,心筋保護液温度cold/warm/tepid, 投与方式continuous/intermittent(multidose)/single dose,投与経路antegrade/retrograde deliveryなどさまざまな要素によって構成されるハートチーム全体で連携すべき総合的補助手段である.本稿では代表的な心筋保護法についてその適正な選択のための基礎的理論と臨床成績を概説するとともに,Del Nido cardioplegia,Microplegiaなど新たな心筋保護戦略,比較臨床研究結果などの最新の臨床知見を紹介する.

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